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公開日:2018年6月7日 更新日:2020年11月30日

【匠の伝承】鋏が、すべてを物語ってくれる

東京打刃物

華道、盆栽などの世界では、「國治(くにはる)」の名で知られた川澄巌さんの鋏。物がすべてを語るという川澄さんに、ものづくりの神髄に迫ります。

使い込むことによって、物は完成する

確かにね、物を作るのは私たち職人ですけどね、鋏は買ってくれた人が使い込むことで、初めて物として完成するものなんです。鋏は日常品だから使ってもらわないと意味がないし、長く使っていただいて初めて価値があると思えるもの。だからその鋏がいい物かどうかって、何年も経ってからじゃないとわからないわけですよ。だから“ものづくり”って難しいわけ。

でも、いい物っていうのは、確実に使い手の希望に応える力を備えています。愛着を持って使い続けていただければ、鋏が体の一部のようになって、自由に動いてくれるようになりますよ。私はただ、しっかりと鋏を作るだけ。切れ味がいいのは当然のことですが、長時間使っても疲れないこと。そして道具としての見た目の美しさも備えていることが、大事なことだと思っています。


盆栽用(左)と花鋏。重厚な佇まいと洗練された形。思わず見入ってしまう


曲げられた持ち手の先と本体のわずかな隙間。長時間使っても手が疲れない

平らなところは平らに、丸いところは丸く

私が作っている鋏は華道や盆栽、洋裁など、用途別に違う形をしていますが、それぞれにこだわりを持った形をしています。そのこだわりを形にした親父は昔の人にしてみれば、えらくハイカラな人で、多趣味。遊びを知っている人でした。でも、そこがよかったのでしょう。遊びのなかからさまざまなことを学んで、卸問屋さんたちからの意見にも耳を傾け、アイデアを次々出しながら、祖父の作った鋏にさらに磨きをかけていった。

中学生のころから親父の手伝いをしていて、特に厳しいことを言われた記憶はありません。ただ、不意に「平らなところは平らに、丸いところは丸く」なんて言うんですよ。どういうことかなと思って自分が作業している手元を見るわけです。すると、なるほどなって親父が言っていることがわかる。何よりも物が語ってくれる。物を見ればすべてわかる。私には後継ぎはいませんが、鋏が後世に残っていけば、それを見てくれた人が私と同じような意志を持ち、鋏と向き合ってくれるかもしれないと思っています。
(文:吉川麻子影:蓑輪政之)

東京打刃物とは

1871(明治4)年に廃刀令が交付され、ほとんどの鍛冶職人たちが業務用、家庭用打刃物づくりに転業したことで、今日まで続く打刃物の基礎が築き上げられました。


川澄さん

1932年足立区生まれ。中学生のころから、初代「國治」である父の仕事を手伝いながら、打刃物の世界へ。華道や盆栽、洋裁用など、用途に合わせた特徴ある鋏を作り続ける。特に華道用の花鋏は国内でも最高ランクと誉れ高い名品。

平成27年度東京都優秀技能者(東京マイスター)受賞
平成28年度卓越した技能者(現代の名工)表彰
令和元年度文化庁長官表彰
令和2年度秋の褒章「黄綬褒章」受章

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