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公開日:2024年8月23日 更新日:2024年8月23日
ペアレント・メンターとは、自らも発達障がいの子育てを経験し、かつ相談支援に関する一定のトレーニングを受けた保護者です。
今回、「こども支援センターげんき」で相談者の悩みや不安をお聞きしたり、自分の経験を踏まえたアドバイスなどを行ったりしている4名のペアレント・メンターの皆さんにお話を伺いました。
ペアレント・メンターの皆さん
(後列左から時計回りに、町田彰秀さん[(一社)ねっとワーキング 代表理事]、今泉京子さん、川松佳緒里さん[同副理事]、中村康子さん)
--みなさんがペアレント・メンターになろうと思ったきっかけを教えてください。
【町田】
私はもともと「ゆに~く」という発達障がいの当事者とその保護者の会に入っていて、その時、今もアドバイザーをしていただいている鳥取大学の井上先生や足立区議会の区議の方などから、ぜひ、ペアレント・メンターの団体を足立区にもつくりましょう、という話をいただきました。テレビ番組で他県の取り組みを見たことがあったので、ペアレント・メンターのことは知っていて、これを足立区でできるならぜひやりたいな、と思い立ち上げに参加しました。
【川松】
私は、立ち上げ時のメンバーの方に声をかけていただきました。私は息子が2人いて、ともに自閉スペクトラム症です。上の子は知的には問題ないんですがデコボコがあって、区立小学校の通常学級の中で育てなければならなかったので、すごく悩みが深かったですね。そのころは発達障がいの悩みを言えるところや、話し合える人もいなくて…。そのときにメンターさんと話せたらよかったでしょうね。今は一般社団法人ねっとワーキング(以下、ねっとワーキング)の事務局の一人として関わっています。
【中村】
私は双子の息子のうち1人が自閉スペクトラム症を持っていて、小学校から特別支援学級に通っていました。そのときに知り合った先輩ママさんがねっとワーキングの立ち上げメンバーで、声をかけていただきました。そのときはペアレント・メンターの存在も知らなかったのですが、事務局の説明を聞きに行ったときに「とにかく話を聞いてあげることが大切」と聞いて、それなら私にもできるかもしれないと思ったんです。私自身もまだまだ未熟でしたが、ちょうど人から相談を受けたり、話を聞いてほしいと言われる機会が多くなってきていた時期でもありました。
【今泉】
うちは子どもが5人いまして、1人目は不登校、2人目は自閉症で、4人目も不登校だったりと、育児の悩みがずっとある状態です。川松さんに声をかけていただき、最初は相談に行っていたんです。それまでもいろいろな専門家などに相談をしていたのですが、ペアレント・メンターとお話をすると、仲間だなと思えたり、共感の仕方や目線が違うと感じました。その経験もあり、「メンターやってみない?」と声をかけられたときに、自分も何かできれば、と思ってやることにしました。自分が苦しかった分、同じ思いの人の気持ちはわかってあげられるのかな、と。
--「とにかく話を聞いてくれる、共感してもらえる」のは、専門家にはない、ペアレント・メンターならではの良さのように感じます。
【今泉】
先日、相談者の方に「やっとここにたどり着いたんです」という言葉をいただきました。実際に、発達に課題があった子どもを育てた人の意見を聞いてみたかったんだと思います。
【中村】
止まらなくなるくらい、たくさんお話ししてくださる方も多いですね。私自身も専門の先生にもいろいろ相談して、アドバイスを何とか実現させようと頑張ったのですが、なかなかアドバイス通りにはならないし、子どもの反応もいろいろです。それで悩むことも多かったです...。メンターになって、相談者の方から同じような話を聞いて「いや、それはできないんだよね」と経験談をお話すると、すごくホッとされて「やっぱりそうですよね」って。そうやってお互いわかりあえたときに、相談者の方の表情が変わるのがすごく印象的です。
--相談者の存在が、ペアレント・メンター自身の喜びや学びにつながることも多いのでしょうか。
【中村】
そうですね、相談者の方が帰られるとき「よかったです」とすっきりした顔をしていたり笑顔になったとき、「少しはお役に立てたのかな、話を聞くだけでこんなに笑顔をいただけるなんて」と私も満足感でいっぱいになります。
相談のなかで自分の話をすることもよくあります。就学や家族との関わりなど悩んだことをお話しすると、相談者の方が「そういう感じでここまで来れているんだな」と何となく察してくださって、「それでいいんですよね」みたいに言われると、話してよかったな、と思いますね。
私自身も色々なケースのお話を聞くなかで、メンターとしても母親としても、勉強になっています。
【今泉】
私も自分が体験したことしかお話しできないのですが、中学校のときに不登校だった上の子は就職して関西で一人暮らしをしていたり、やはり中学校で不登校だった4人目の子も、本人が希望した高校に通い、アルバイトもしています。そんな話をすると「何となく光が見えました」と言っていただいたりしますね。
悩んでいるときって「この先どうなるの? この子はどうやって生きていくの?」と頭がぐるぐるしてしまうし、子どもを責めてしまうこともあると思うんです。でも私が自分の話をすることで「うちの子も大丈夫かも」と少しでも思ってもらったり、「元気もらいました!」と言ってもらえたりするとうれしくなりますね。
解決はしてあげられないけれど、やっていることを否定せず「お母さん頑張っているよ」と言ってあげるだけで涙される方もいます。頑張りは目に見える形で報われるものばかりでもないし、子どもがすぐに変わるわけでもない。でも、その苦しさに共感して「愛情、伝わってますよ」と言ってあげるだけでも違うのかなと思います。相談者の方が泣くことができるだけでも意味のある活動だと思います。
--ペアレント・メンターをしていて大変なこともあるのでしょうか。相談を受ける際に気を付けていることはありますか?
【中村】
私自身まだ悩んでいることが多いので、話を聞いていても言ってあげる言葉が見つからないこともあります。同じように発達に障がいがある子どもでも、それぞれ違いがありますから。そんなときは、相談者の方にとにかくたくさん話してもらうようにします。そうするとお互いに分かり合えるきっかけが見つかったりしますね。
【今泉】
私は、自分があまり大変なことを大変と思わないタイプですし(笑)、いろいろ経験して平気になってしまっている部分があるのですが、その感覚は人それぞれだと思うんですよね。育児って、たくさん悩むと思うんです。首が据わるの遅くない?とか寝返りうつの遅くない?とかちょっとしたことでも...。そういったところも含めて、いろいろな感覚に共感していけるといいなと思います。だいたい初対面の方が多いですし最初は緊張されているので、安心してたくさん話していただけるように、雰囲気づくりを大切にしています。
--ペアレント・メンター事業が足立区で発足して9年目になりますが、これまでどんな相談が寄せられていますか?
【川松】
小学校・中学校選びや学級選び、特別支援学級に通った方がよいのだろうか、など、進路についての相談や、学校や家庭、学童などでの行動に関する困りごとなどがありますね。そして最近気になっているのが暴言・暴力や不登校の相談です。コロナ禍で不登校や在宅ワークが増えたからか、親子2人暮らしなどの場合、影響が大きいのかもしれません。夫婦で連携が取れないとか、やりづらさで悩んでいる方も多いです。
発達障がいの子の育てにくさに絡んだ家庭内の困りごとのような、ちょっと専門機関では話しづらいことも、言っていただいて大丈夫です。守秘義務があるので安心して話せますし、メンターも「あるある」というか、同じような経験をしていたりしますしね!
【町田】
メンターの中には里親(※)をしている方もいます。里親さんや私のように実子ではない子の養育をしている方の場合などは、同じような経験を持つ方々と繋がる機会がほとんどなく、孤立しがちなのです。ですから、我々は、孤立した養育者を作らないためにも、メンターは発達障がいのみに特化するのではなく、なるべく幅広い経験をした人材を揃えるよう心がけています。
「決して孤独ではない」と、メンターとの出会いをお守りと思って帰ってもらえる場所にしたいです。
※里親とは…児童福祉法に基づき、通常の親権を有さずに18歳以下の子どもを養育する者
【川松】
「発達障がい」に対応した相談を大前提にねっとワーキングには、ダウン症や難聴、弱視などの子どもの親もいるので、そういった相談者さんにもより共感できますね。発達の凸凹はありつつ、大学や大学院まで出た子の親もけっこういるし、町田も言うように幅広く揃っていると思います。
【今泉】
私のこれまでの相談の中では、学校の先生との関わりで悩まれている方が多いなと思います。それぞれの先生の対応にすごく違いがある印象ですね。子どもによると思うのですが、ガーッと怒られてもその意味が入らない子には入らない。それで、ただ怖くて学校に行きたくない、となってしまうケースもありますね。
--相談者の方々にはリピーターになる方も多いのでしょうか。
【川松】
そうですね、月に1度くらい定期的に来てお話しされる方もいますし、1回来て安心して帰られて、来なくなる方もいます。いっとき集中的に来られる方もいます。時期的には春先の3月あたりに切羽詰まった感じで来られる方も多いですね。年度が切り替わることの心配とか、子どもの調子が下がってしまったり、ご自身が不安になるということもあるかもしれないですね。
--グループ相談も行っているそうですね。
※グループ相談とは…月に1回程度開催される相談会。子育てに悩む親御さんたちとおしゃべりを楽しみながら相談できる。(メンター2名に対して相談者4~5名)
【今泉】
バラバラの年齢層で集まったりすると、未就学児や小学生のお母さんが、中学生のお母さんの話を「まだ先だけど勉強になります」といった感じで聞いていたりします。メンターと話すだけじゃなくて、横のつながりでお話しができるのがいいですよね。
【中村】
一人でメンターと話すのと違って、少し気楽に来られるのかもしれないですね。
【川松】
すごく印象的なことがあったんですけど、グループ相談にいらっしゃった方で、1回目と2回目とで、同じ人かな?って思うくらいガラッと印象が変わった方がいたんです。「雰囲気変わりましたね」と言ったら、「ここに来て、同じような悩みを抱えている人がこれだけいるって分かった」「それまでの自分は、心にカーテンをかけていた。ここに来て、それを取り払うことができた」と。自分と同じ人がいる、孤立感がなくなるというのは、それだけすごいことなんだ、とその方の言葉から実感しました。
--いま悩んでいる人、相談に行こうか迷っている人にメッセージをお願いします。
【町田】
「同じような悩みを経験してきた人」として話を聞くことができるのが、ペアレント・メンターの強みです。同志がここにいる、ひとりじゃないんだ。と思って来ていただけるといいなと思います。
【川松】
自分が悩んでいるときに、「この子、大人になったらどうなるのかな」とすごく知りたかったんです。そういう未来を垣間見る感じで気軽に来ていただくのもいいかなと思います。もちろん切実な話でも、一人で悩まずに吐きだしに来てください。
【中村】
私は、息子に障がいがあるのかなと疑い始めたときにものすごく悩んで、ある友達に相談したんです。その友達は障がいを持ったお姉さんがいる方で、いろいろ聞いてくれて、最後に「一人じゃないよ」と言ってくれたんです。その言葉が自分の中にとても沁みて。だから私も、ペアレント・メンターとして「一人じゃないよ」「一緒に考えよう」、そんな気持ちで続けていきたいと思っています。
【今泉】
悩んでいるときって、トンネルというより「井戸に落ちる」みたいな感じだと思うんです。どこを見ても真っ暗で、上を見ることも忘れてしまう。そんなとき、子どものことでも親や夫婦、先生のこと、何でも話せる場所がここにあるのを知ってもらいたいですね。
--みなさん、ありがとうございました。
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場所 |
〒121-0816 足立区梅島三丁目28番8号(西新井駅東口より徒歩3分) |
申込方法 |
電話:03-3852-2932 |
問い合わせ | 足立区ペアレント・メンター事務局(こども支援センターげんき内) |
※この事業は(一社)ねっとワーキングと区が協定を締結して実施しています。
お問い合わせ
足立区ペアレント・メンター事務局(こども支援センターげんき内)
電話番号:03-3852-2932
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