ホーム > 特集一覧 > 著名人が語る!足立大好きインタビュー > ~足立大好きインタビュー~ 金型彫刻師・佐藤英夫さん
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公開日:2021年7月8日 更新日:2021年7月8日
東京2020オリンピック・パラリンピック両方の聖火リレートーチ中央にあるエンブレム。このエンブレムの金型は、佐藤氏により彫り上げられた。今回は佐藤氏に聖火リレーに臨む意気込みを伺った。
エンブレム(*1)のデザインをテレビで初めて見たとき、直感的に「こんな複雑なデザインは、機械だけじゃ絶対彫れない。自分にしかできないと思った」と語る佐藤氏。その後、取引先から直接佐藤氏のもとへ打診があり、オリンピック・パラリンピック両方の聖火リレートーチのエンブレムを手がけることになった。
「細かい部分は手作業。そこが職人の腕の見せどころ」と笑顔で製作作業を振り返るように、エンブレムには佐藤氏の熟練の技術が込められている。「金型の設計図を最初に見せられたとき、模様の凹凸が深すぎて、プレス加工(*2)で使ったときに金型が欠けやすい。だから長方形をもう少し薄くして凹凸を浅くできないかって言ったんだけどね。それはデザインだから変えられないと。」いかに寸法通りに、かつ金型が壊れないように仕上げられるかが佐藤氏に求められた仕事だった。
金型は模様のベースになる長方形の角の部分がプレス加工の際に欠けないよう緻密に計算され、決められた寸法通りに彫りあげられた。出来上がった金型は、後に120tもの圧がかかる工程に幾度も使われたが、最後まで角が欠けることはなかったという。
まさに、職人のなせる技である。
(*1)…東京2020オリンピック・パラリンピックのエンブレムは、組市松紋と呼ばれる、形の異なる3種類の四角形が組み合わさった複雑な幾何学模様が採用されている
(*2)…材料を強い力で押し付けて変形させる加工方法。
佐藤氏は復刻版の「第1回アテネオリンピック優勝メダル」や琉球政府が公認する「沖縄復帰記念小判」の金型を手掛けるなど他の追随を許さないほどの実績を持つが、金型職人を志したきっかけは意外にも日常の些細な会話の中にあった。「実家にいたとき、親父が知り合いと鉄に何か彫る仕事があるって話しているのを聞いて。あんな硬いもの、傷つけるのも大変なのに。身につければ替えの利かない仕事になると思って、希望を持って片道切符で上京して浅草の金型職人に弟子入りしたんです」と15歳だった当時を振り返る。
金型彫刻の世界に飛び込んだ当時、日本は高度経済成長期を迎えていた。「この世界で続けていくべきか、悩むときもあった。もっと稼げる業界がほかにもあったから。ただ、誰でもマネできるようなものじゃないから、辛抱してこの技術を身につけていったほうが、この先経済の成長の波に乗れると思ってこの道を選んだ」佐藤氏の当時の選択は、間違いではなかった。
15歳で金型彫刻の世界に飛び込んでからは、「仕事の虫」と周りから言われるほど朝から晩まで仕事に打ち込み、技術を身につけた。その後独立してから気づいたことは、高いレベルの知識も必要であるということだ。「温度が1度変わったときの金属の収縮率が計算できないようじゃやっていけない。プロになるには技術と知識、両方にしっかりした土台がないと」知識は専門学校に通うことや、専門書を読むことで身につけたという。
「たくさん苦労をして技術と知識を身につけてきたからこそ、このコロナ禍でも仕事には心配していない。昔は自転車のペダル刻印やチタン材のインプラント(*3)の金型を彫っていて、今はアクセサリーや家電のロゴ。その時代に合わせて色んな仕事が舞い込んでくるよ」佐藤氏の腕を求め、現在も国内外から依頼が絶えない。
(*3)…歯の無くなったところに埋め込む人工の歯根
東京1964オリンピックの年に足立区で独立。57年間、金型職人として腕を磨き続け、数々の大仕事を手掛けてきた。オリンピックの舞台は再び東京へ。今度は自らが手掛けたトーチを手にして聖火ランナーを務める。聖火リレーに臨む想いを聞くと、「金型彫刻っていうのは、名前が表に出てこない縁の下の力持ち。その自分が、オリンピックの聖火リレーという大舞台で自分の手がけたものを手にして走ることができるなんて、本当に奇跡だね。最近は高度な技術を継ぐ人が少なくなっているけど、足立区にはこれだけの優れたものづくり技術が、今なお受け継がれているんだ、ということも伝えられたら嬉しいね」と、走る日を心待ちにしている。
職人としての想いを乗せて、2021年7月18日(日曜日)、聖火をつなぎます。
【主な表彰歴】
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金型彫刻師 佐藤 英夫(さとう ひでお) 1942年栃木県生まれ(79歳)。1級工業彫刻技能士。 |
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