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公開日:2026年3月26日 更新日:2026年3月26日

アートにワケあり

BUoY 芸術監督 岸本佳子さん

BUoY 岸本佳子さん

20年の廃墟をアートセンターに

20年以上もの間、廃墟となっていた地下の元浴場施設と2階の元ボウリング場の2フロアを改装し、2017年、「BUoY」はアートセンターとしてオープンしました。地下1階は演劇やダンス、現代音楽の公演などを行う劇場に、2階はカフェとギャラリーになっています。

地下1階の劇場には、当時の浴槽やシャワーの蛇口がそのまま残っている

カフェスペース

2階のカフェの床にボウリング場のレーンの跡が!

初めてこの建物を見たのは「BUoY」がオープンする2年前、留学していたアメリカからの一時帰国中。3年ぶりに偶然再会したギャラリストの方に紹介され、ここを訪れました。室内には数十年分の埃が積もり、雪景色みたいでした。地下1階は真っ暗で、まるでお化け屋敷のよう。唖然としましたが、同時に開放的な空間に魅力を感じました。特に2階は窓から光が差し、「素敵!」って。ここを活用することは難しいと思いましたが、同時に強く心動かされました。長い間無駄になっていることがもったいなく感じられ、「実現してもしなくてもやってみよう」とアートセンターの設立を決心しました。

この物件が千住にあって良かった

オープン前に、プログラムを運用するための資金集めと広報活動の一環として、クラウドファンディングを実施しました。すると、文化事業に携わる地域の方からお電話をいただくなど、想像以上の反響があって。地元の方がすごく歓迎してくださったことで、どんどん前へ進めたんです。千住で飲食店を経営されている方が10人ほど仲間を連れて掃除を手伝ってくださったり、近所の飲食店の元編集者のマスターがアートに詳しく、話が大いに盛り上がったこともありました。

それまで千住を訪れたことは一度しかありませんでしたが、予め持っていたイメージとの良い意味でのギャップに励まされました。

東京藝術大学もある千住には、現代美術や現代演劇に興味を持ってくださる方も多いと感じています。あとは、商店街に活気があり、他人に対して寛容でにぎやか。特に飲み横が楽しすぎて(笑)。動きはじめてみて、たくさんの「縁」が繋がっていたことにも気づきました。

この物件が千住にあって良かったと思うことしかありません。

カフェの窓際にはたくさんの植物が!様々な方からいただき、少しずつ増えていった

「異なる価値観と出会う場所」にしたい

一般的に、ギャラリーと劇場は、同じ空間にはありません。美術を見に行く人は美術館に行き、芝居を見に行く人は劇場に行く。でも「BUoY」では、両者が常に往還しています。地下1階は劇場でありつつ、展示スペースにもなる場所に。2階は、「開かれたロビー」というコンセプトのもとオープンなカフェにして、状況に応じてギャラリーにもパフォーマンススペースにもなるようにしました。現代芸術の展示と劇団の公演が被った時には、双方の作品を見ていただけるようご案内します。ここに来ると、普段の自分のセンサーには引っかからないものに出会ってしまうような「異なる価値観と出会う場所」をめざしています。

2階に並べられている椅子は、建築学科出身の夫が趣味で集めたもの

カフェスペースがギャラリースペースに!

ただ、オープン当初は上手くいきませんでした。カフェの来客数がごくわずかで大赤字。劇場を訪れた人はすぐ帰ってしまい、分断がありました。状況が変わるきっかけとなったのは、カフェで出していたプリンがコロナ禍にInstagramで話題になったこと。来客が増え、人の流れができるようになったんです。劇場目的の人がカフェを訪れたり、カフェの常連さんがアートに興味をもってくれたり。当初想定していた領域横断が自然に発生するようになりました。

カフェスタッフの一押しスイーツ「カッサータ」

カフェの一角には、アーティストが作成した動物の置物が!

ニューヨーク生活で感じた違和感をヒントに

父の仕事の関係で幼少期からニューヨークと東京を行き来する生活を送っていましたが、日本人で中学生の私が駅で迷っていたら必ず誰かが助けてくれるくらい、当時のニューヨークは人種の多様性に対して寛容でした。

ニューヨークにあるブルックリン美術館では月1回、ロビーでオールナイトイベントを開催しています。美術館なのに皆がロビーでお酒を飲み、ノイズ系など前衛的な音楽を楽しむ。1歳から3歳くらいの子どもがステージの前で踊っていることもありました。

人種や年齢を問わず、万人が日常生活の延長で自然に前衛芸術を共有して楽しんでいるという構図を日本で見たことがなかったので、同じような場所が日本にもあったらいいなと思っていました。この場所に出会ったことで、漠然と感じていた思いを言語化せざるを得なくなり、東京に感じていた違和感に小さな一石を投じるきっかけになりました。

空間の自由度と不自由度を楽しむ

地下の劇場は固定の客席がなく観客との距離が近くとれる一方、中央に柱があるため空間に制限があります。この「制限」をどうクリエイティブに使うのか、空間の自由度と不自由度を面白がってくれるアーティストとお客様が「BUoY」に集まってきます。

ほかにも、定期的に2つのフェスを開催しています。1つが「BUoYフェス」。外部から数名のアーティストをお呼びし、作品を上演しています。著名アーティストもいらっしゃいますが、無名であっても、良いと感じた方に声を掛けていて、若い世代のアーティストを招くこともあります。

もう1つがコロナ禍をきっかけに始めた「無為フェス」。「無為」とは仏教用語で、生滅変化をしない、作為や執着を離れたところに生まれる涅槃の境地を指す思想です。毎回、さまざまなコンセプトをこちらで設定してアーティストを公募しています。こちらで人選を行うのではなく、作品の内容を各アーティストやグループに委ねることで、「雑多な可能性」を感じるプロジェクトです。「目標に向けて邁進する」といった価値観の対極にあるものを問えるのも「無為フェス」。「何もしないをする」アーティストもいるなど、面白いことが起こっています。

BUoY9年目に挑戦したいこと

現在、3歳と1歳の子育てをしていますが、仕事との両立が難しく「自分がこうありたい」と思うところまでやれないのが現状です。プロジェクトを減らさざるを得ない状況が続き、葛藤する日々。挑戦することを諦めてはいませんが、ブランクができてしまったと感じています。

今年は、BUoY 9年目。今年成し遂げたいことは、まず自分の作品を作ること。主宰している多言語劇団「空(utsubo)」と「BUoY」とのコラボも実現させたいと考えています。そして、国内外のアートスペースとの連携。2026年はニューヨークにあるアートセンターと共催でBUoYフェスを開催する予定なので、海外のアートスペースとの次のプロジェクトにも繋げていきたいです。

 

プロフィール:岸本 佳子(きしもと かこ)

「BUoY」芸術監督。東京都渋谷区出身。幼少期よりニューヨークと東京を行き来する。東京大学大学院で、表象文化論を専攻。博士課程在学中より、多言語劇団「空(utsubo)」を主宰。2012年から15年に米コロンビア大学芸術大学院でドラマツルギーを専攻。卒業後は、日本でドラマトゥルク、演出家、翻訳家や大学講師として教壇に立つ。

 

BUoY(ブイ)

2017年にオープンした、劇場・稽古場・ギャラリー・カフェを擁するアートスペース。

海に浮かぶ浮標を意味する「Buoy(ブイ)」という言葉に、千住の歴史を内包しつつ新たな芸術を発信して行く、また、沈められても沈まず、方向を見失った船や人の目印になる、という意思を込めて名づけられた。北千住駅西口より徒歩8分。東京都足立区千住仲町49-11

 

 

 

 

 

 

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