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公開日:2023年3月16日 更新日:2023年3月16日

親子二代、子どもたちに小松菜を届ける

宇佐美農園
7代目 宇佐美 一彦(うさみ・かずひこ)さん(写真右)
8代目 宇佐美 大(うさみ・まさる)さん(写真左)

小松菜畑

足立区辰沼で江戸時代から続く農家、宇佐美農園。メインの小松菜は1年を通して栽培しており、他にも季節に応じて様々な野菜を栽培している。区内小中学校の給食に小松菜が使われることになったきっかけや、子どもたちへの「食育」、コロナ禍のピンチ。親子二代の“これまで”と“これから”について話を聞いた。

小松菜収穫の様子

小松菜収穫の様子

収穫中の小松菜畑で。写真(下)の政子さん(一彦さん妻)と3人で毎日小松菜と向き合う

ある栄養士の熱意に根負け

7代目の宇佐美一彦さんは約20年前から、近所の小学校の子どもたちに向けて小松菜の収穫体験を行っていた。小学校の栄養士からは、「宇佐美農園の小松菜は食べたら他と全然違う。ぜひ子どもたちに給食で食べさせたい」と懇願されていたが、学校給食用に毎日納品するとなると、市場への納品と両立することが難しいため、断っていた。しかし、「年に2、3回だけでも子どもたちに食べさせたい」と、約3年間、その栄養士みずから自転車で小松菜を収穫に来たという。その熱意に心を動かされた。市場に納品しても「誰が食べているのかわからない」。それよりも「顔が見える関係を大事にしたい」と小学校の子どもたちに小松菜を届けることを決心した。

 

6校からスタートしたのが17年前。その後、「日本一おいしい給食」を目標に掲げた足立区の要望で、すべての小中学校に足立区産の小松菜を使用することに。区内の生産者6人と協力して全校を分担し、今では宇佐美農園で約50校を担当している。和洋関係なく使いやすい小松菜は、月の半分もメニューに入っているという。

小松菜収穫の様子

収穫された小松菜

おいしさのヒケツ

栄養士が絶賛したおいしい小松菜作りのヒケツは何か。「水やりの回数と量が多いから」と語るのは8代目の大さん。水を抜くと苦くなったり筋っぽくなったりするという。今回取材を担当した職員が、一彦さんに促され、収穫したばかりの小松菜をそのまま生で頂いてみたところ、みずみずしさと甘さが口の中に広がり、普段食べている小松菜との違いに驚いたという。生で食べる人が多いことも頷ける。

 

その他にこだわっているのが馬糞肥料。馬は稲わらを食べるため、その糞は水持ちが良く腐らないという。代々受け継がれている製法に、日々の研究と改良を重ね、おいしい小松菜が育てられている。

小松菜畑

小松菜の根っこ

根っこを切り落とさないのも特徴。根っこももちろん食べられる

命の大切さを学ぶ「食育」

宇佐美農園が大事にしているのは子どもたちへの「食育」だ。約20年前から、近隣の小学生を受け入れての小松菜の収穫体験や、小学校に出張しての授業を続けている。多い時には年30校以上が収穫体験に訪れ、定番の行事となっている。一彦さんは、「食育」を通して「愛情、感謝、命をいただくということ」を伝える。小さな種から45日間、愛情をかけて育てられた小松菜を収穫し、子どもたちは命の大切さを肌で感じる。

 

一彦さんは、「子どもたちも皆、家族だけでなく先生や地域の方々などたくさんの人に愛情をかけてもらっていることを改めて感じてほしい」と語る。「食育」の活動を続ける中で、子どもたちの栄養に関する知識が高まっているだけでなく、行動の変化も感じるという。子どもたちが収穫体験を終えた後にちぎれた葉っぱ一枚も落ちていないのは、宇佐美さんと小松菜への感謝の証だ。

収穫道具

知識ゼロから農業の世界へ

大さんが農業の世界に飛び込んだのは大学在学中の20歳のとき。父の一彦さんからは「好きなことをしていい」と言われており、大学では税理士を目指し経済学やマーケティングを学び、家業を継ぐことは考えていなかった。そんな折、一彦さんが体調を崩してしまう。「学校への納品を止めるわけにはいかなかった」と使命感のままに一彦さんに代わり小松菜を育て、届けた。

 

畑の耕し方や種のまき方、肥料の与え方など、最初はわからないことだらけで「死に物狂いだった」と大さんは振り返る。一彦さんの教えや、SNSでつながった先輩農家からのアドバイスなどを頼りに猛勉強した。次第に、小松菜を届けるという使命感だけでなく、給食を食べてくれる子どもたち、収穫体験に来てくれる子どもたちとのつながりを未来につなげたいという思いが強くなっていった。

 

大さんは大学卒業後すぐ家業を継ぐことを決めた。「涙が出るほど嬉しかった」と一彦さんは語った。

小松菜収穫の様子

親子二代、金字塔

宇佐美農園の小松菜はその味もさることながら、束ねたときの美しさや、雑草や虫食いなどがない優れたほ場(農作物を栽培する場所)も高く評価されている。一彦さんの代には、品評会で合計3度も農林水産大臣賞を受賞した(平成15年、平成18年、平成19年)。

 

大さんに代替わりして初めて、東京都農業祭で小松菜部門の品評会が開催された令和4年。大さんにとって初めての品評会で、束ねた状態の美しさを競う部門で金賞を受賞。さらに、技術・ほ場の部では農林水産大臣賞に輝いた。大さんはこの品評会のために、雑草や虫がいないか気になって、一日に何度もハウスの様子を見に行ったという。その努力を間近で見ていた一彦さんも、自分のことのようにうれしかった。

 

さらに、同じ受賞者の中には、宇佐美農園の他に足立区内の学校に小松菜を納めている同志の農家も2人いた。小松菜発祥の地である江戸川区や葛飾区などライバルの多い都内で、上位4人の内3人が足立区の小松菜農家だったことも歴史を変える快挙だった。

小松菜畑

一糸乱れずまっすぐに、すき間なく栽培

小松菜畑

ハウスごとに生育時期をずらして年中収穫できる

コロナ禍のピンチと宇佐美農園のこれから

「父が長年築いてきたつながりが、コロナ禍のピンチを救ってくれた」と大さんは語る。コロナ禍の一斉休校で2.5トンもの給食用の小松菜が行き場を失ったとき、子どもたちが「宇佐美さんを助けたい」と親を連れて買いに来てくれた。それでも廃棄は免れなかったが、その思いだけでもうれしかったという。

 

「子どもたちにおいしい小松菜を食べてほしい」「食育を通じて命の大切さを伝えたい」。2つの思いが親から子へと受け継がれた原動力のひとつは、「子どもたちの笑顔が見たい」というシンプルな願いだ。大さんは一彦さんが築いた子どもたちとのつながりをつなぎ続けるとともに、「今後は足立区産の小松菜を給食だけでなく、足立区の家庭の食卓にも届けたい」と抱負を語ってくれた。

大さん

DATA

宇佐美農園
足立区辰沼2-11-16
TEL:03-3605-3892
HP:http://www.usami-farm.com/

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