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公開日:2023年4月3日 更新日:2023年4月3日

シェア書店、そして千住浪漫シティ

共同書店編境 店主
R65不動産代表取締役 
山本遼

 

「4年間アパートに住んでるけど、このまちに友達、誰もいないんです」。

共同書店「編境」に来てそう話した若者がいた。「編境」は誰でもふらっと立ち寄れる本屋。「本を売ることより、ご近所のつながりをつくる方が目的なんです」と店主の山本遼さんは話す。「編境」とは、人と人との「境」を「編む」こと。店内に約30ある木製の本棚は、約30人の棚主が本を並べ、つまり約30人の棚賃でまかなわれる「シェア」本棚。シェアハウスならぬまさに「シェア本屋」なのだ。

山本さん

千住のまちのリビング

山本さんがシェア本屋を思いついたのには理由がある。

 

そもそも山本さんは、高齢者向け賃貸住宅を扱うR65不動産の社長であり、同時に都内にシェアハウス15軒を展開する事業家である。

 

65歳以上の高齢者は部屋を借りるのが難しい。突然死などのリスクがあるので、大家さんが貸し渋るためだ。その点にいち早く着目し、保険の整備や、家電を活用し低価で確実に見守る仕組みの開発などにチャレンジし、その壁を崩してきた業界のトップランナーだ。

 

一方で若者の居住についてはちょっとしたご縁から「シェアハウス」という選択肢に出会い、いつしかその面白さに魅入られ、その数を増やしていった。ただ面白いことに、その15軒のうち5軒が足立区の千住エリアにある。山本さんは、自身が運営する15のシェアハウスの空き部屋を泊まり歩く自称「シェアハウスホッパー」だが、最近は千住にいることが増えているという。

 

飲食店、銭湯、路地、土手など千住の好きな場所はたくさんあるが、プラス、運営するシェアハウスが増え、面白い人脈が増えたこと、また「新しいことを始めようとするとまちの人が興味を持ってくれたり応援してくれる」まちの土壌のようなものにも魅力を感じ、千住に「ハマっている」という。

 

シェアハウスの住人はキッチンや風呂が共用なので荷物が少ない。必然的に、普通のアパートより人の出入りは多い。山本さんのシェアハウスを出て、近所に部屋を借りる人も少なくないが、「住人が出て行ってしまうのはちょっと寂しい」。その一方で、まちに知り合いは増え、もと住人を含むLINEグループも拡大。それならまち全体を「シェアハウス」ととらえて、そのリビングにあたる場所をつくれないかと考えたのが、シェア本屋「編境」の生まれるきっかけだ。

店内の様子

店内の様子

入口から店内の様子

近所の人が気にかけてくれるまち

「本が好きなので本屋をつくりましたが、好きなもので人とつながるのは楽しい。間に本があると、知らない人とも話ができます。田舎の人間関係が窮屈だからみんな東京に出てきたので、近所だから話さなければならないというのは違うなって思うんです」。

 

編境をスタートしたのは2022年7月で、特に広報しないでいるが、約30の本棚はすでにほぼ埋まっている。広報しない、発信をがんばらないのは、本当に興味のある人、ご近所さんだけに来てほしいから。棚主が中心になって店を開ける不定期オープンで、現在の課題は、なかなか思うように店が開けられないことだ。棚賃は月額3000から4000円で、1回店番をすると1000円引きという太っ腹なシステムだが、開けられない日もあり、まちの人にも手伝ってもらって、もう少しオープン日を増やしたいと考えている。

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約30ある本棚はそれぞれ異なる棚主が借りている。棚主の個性あふれる並べ方やメッセージを見るのも楽しい

インテリア

インテリア

インテリアや植物も棚主たちが自由に持ち寄ったもの。月に一度、棚主会で集まって運営について話し合う

編境がはじまってから、「何ができたの?」と顔を出してくれるご近所さん、「本を寄贈したい」と言ってきてくれる人などもいて、近所の人が気にかけてくれるまちなんだなとあらためて感じているという。ふらっと立ち寄って1時間くらい話していった一人暮らしの76歳の女性は、コロナで2年くらい人としゃべっていないと話していったという。

 

「まちに、誰でも来ていいよって言える場所がたくさんできることで、まちにつながりができて、話ができる場所がたくさんできれば、家電で見守られるより、まちとしてすごくいいなあって思うんです」。

営業中の札

山本さん

これまで「不動産」に向いていた関心が「まち」に向き始めている理由のひとつは、自身が営むR65不動産の限界を感じ始めたことだという。「一つひとつの住宅へのアプローチだけではうまくいかないと思う場面がある。たとえば一人暮らしの高齢者が認知症になったとき『軽度ならそのままでいいんじゃない?』って笑って言えるまちになれば、R65不動産はいらない」。たとえ貧しくても歳をとっても、困窮しないまちをつくりたいと山本さんは言う。「社会的使命でもあるけど、そういうまちの方が面白いので」。

夢への一歩を踏み出しやすくする

今、「まち」に目を向けるようになって、考えるのは、まちに誰もが立ち寄れる拠点をたくさんつくりたいということと、それを自分が前に出るのではなく、みんなの力を借りてやりたいということ。「千住は、何かやりたいと思ったときに応援してもらえるまちだと思う。さらに、みんなが挑戦できる土壌をつくりたい」。

 

山本さんの千住の5軒のシエアハウスのうち2軒は、もと住人がやりたいと言った夢の実現を山本さんが少し手伝い実現したものだ。青年海外協力隊など国際協力の経験者や希望者が多く住む「チョイふるハウス北千住」、暮らしを楽しみ、DIYもOKな「日日nichinichi」。そのほか、クリエイターが多く住む「アサヒ荘」など、住人の色が出ることが面白いと思う。「小さなステージをたくさん用意して、その舞台に人を上げていきたい。みんながやりたいことをできるようになるといいなあと思って」。

 

それ以外にも、もと住人の大学生がアートギャラリーを始めたいという夢に、大家となる形で手を貸し、2021年に誕生した「ギャラリーPUNIO」も千住のユニークなスポットだ。しばらく空き家だった一軒家を、大学生たちが自らリノベーションし、1階をギャラリー、2階をシェアハウスとして、活用している。

 

「家を借りるのは、ぼくは慣れているけど、慣れていない人には勇気が要るじゃないですか。学生が空き家を借りるってちょっとハードル高いんですよね。一歩を踏み出すのが少し大変なので、僕が借りることで、踏み出しやすくしたい」。

店舗の外観

千住に面白い人脈が増えてきたから

一方、千住が人気になって家賃が上がって来ているのは悩みだ。

 

「家賃が上がっていくと、若い人たち、面白いことをやろうとする人たちが住めなくなってクローズドな住宅街化してしまう『ジェントリフィケーション』という現象が起こる。それに対し、1つの物件をシェアして安く借りてもらうことで、抗うことができないかなって考えています。まちの中で空いている資産(空き家)をみんなでシェアしていくのは面白いなって思うんです」。

 

今、考えているのは「千住浪漫シティ」構想。「千住には浪漫がある。若い世代が新しいことにチャレンジすることを歓迎する風土がもともとあったし、千住に面白い人脈が増えてきた。何かを始めるときには、ハコ(建物)だけでも人脈だけでもお金だけでも夢だけでもダメで、今ならいろいろバランスよく揃ってきているので、新しいことをいろいろ試せると思う」。

 

これから10年で10軒のシェアハウス、10軒の「PUNIO」や「編境」のような拠点をつくりたい。拠点で、次に考えているのは宿泊施設。「千住が面白いのでいろいろな人を案内しますが、遠くから来てくれた人が泊るところがない。飲み屋が充実している千住にとって、夜は重要なシーンだと思うから」。山本さんのアイデアはとまらない。

山本さん

DATA
  • 共同書店 編境
    足立区千住仲町25-2
    11時00分から20時00分 不定休
    Twitter.@henkyo_books
  • R65不動産
    https://r65.info/

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