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公開日:2024年8月8日 更新日:2024年8月8日

知ってる?千住の空き家・古民家利活用

昨今、全国的に問題視されている「空き家の増加」。足立区もその例外ではありません。本特集では、区内でも特に空き家が多い千住を舞台に、空き家を活用して個性的な事業を展開する方々をご紹介します!

 

 

知ってる?千住の空き家・古民家利活用

 

 

路地裏寺子屋rojicoya ろじこや(千住旭町36-1)

築90年の古民家を改装して活用。古民家ならではの雰囲気を活かし、和文化体験、和楽器教室などを国内外の方に向けて開催。近年敷居が高くなりつつある日本文化に気軽に触れ、学べる場となっている。

ろじこや
https://rojicoya.jp/

 

代表:米本 芳佳(よねもと よしか)さん
代表:米本 芳佳(よねもと よしか)さん

日本の文化に誇りを持ってもらいたい

日本の文化に誇りを持ってもらいたい現在の活動をはじめたきっかけは、看護師として終末ケアに携わっていた経験からです。患者さんとの会話の中で「こうしていればよかった」「こんなことがしてみたかった」とおっしゃる方が多くいました。それを聞いて、「自分としっかり向き合って、やりたいことをやっておかなければ」と感じました。出産を機に看護師を辞め、自分はなにをやりたいのか改めてよく考えました。私は、元々人の生き方や生活に興味があった。それと、小さいころから書道をやっていて書道師範の資格を持っていたことが合わさって、自分のルーツである「日本文化」というところに思い至りました。

また、学生のころ、世界を旅していた時期がありました。旅の中で、多くの子どもたちと関わり気が付いたことは、海外の子どもたちはみんな自分の国が大好きだということ。日本から来たことを話すと「自分の国はこんなにすごいんだ!」と自慢気に話してくれるんですね。これ日本だったらどうだろうと考えたとき、ちょっと過小評価というか、ちゃんと誇りを持って話せるのだろうかと不安に思ったんです。

そんな自分の経験と、その後の様々な人との出会いが合わさった結果、「日本文化を子どもたちに」というところに留まらず、その体験を通して「自分の国の文化に誇りを持ってもらう」というところを目標に設定して、イベントを実施するようになりました。

元2軒長屋、その不都合さも大切に残す

イベントを繰り返すうちに、参加者の方たちから「和文化を学べる教室はないのか」という声を多く聞くようになって。それをやるには拠点が必要だということで物件を探しはじめました。この物件との出会いは、私の活動を知ってくださっていた方から、「使いませんか?」と声をかけていただいたこと。ぜひ使わせていただこうと、まずは書道ライブを開催しました。それまではお寺や神社でイベントを開くことが多かったのですが、新築には出せない日本の古民家ならではのロケーションがこの活動のテーマにもよく合っていたので、それをきっかけに「拠点はここにしよう!」と決めました。

元2軒長屋、その不都合さも大切に残す-1

元2軒長屋、その不都合さも大切に残す-3

元2軒長屋、その不都合さも大切に残す-2

聞いたところによるとこの物件は、元々2軒の家が横にならんだ長屋のつくりになっていたそうです。それをぶち抜いて今の大きい空間にしたところを貸していただいています。天井をよく見ると、2軒あった名残が残っていて! 色の変わっているところが家の区切れ目だったようです。変な位置に柱があるのもその名残だと聞いています。それぞれの家の押し入れだったんじゃないか、ってオーナーさんとは話していました。ライブをしたりイベントをするのにはかなり邪魔な位置にある柱ですが、できる限り古民家本来の姿を残したくて、あえてそのままにしてあります。不都合さも大切にしたいと考えたんです。壁の修理も日本に昔からある素材を使っています。元々土壁だったところは、きれいに土壁としてなおしましたし、ほかの部分も漆喰や柿渋を使っています。来た人に日本の技術についても伝えられたらいいなと思ってのことです。誰かの家にお邪魔したような感覚が持てる古民家の空間で、日本文化を伝えていくことにこだわって今の形になっています。

インバウンドに目を付けたワケは…

インバウンドに目を付けたワケは…現在のろじこやでは、単発の和文化体験と通年で行う和文化教室の2つを実施しています。通年のお教室は国内の方がほとんどで、単発の方は外国の方の利用がほとんどです。

インバウンド需要に着目したのは、国内での日本文化のフィールドの少なさから。コロナ禍に入っていったことも大きく関わっていますが、文化継承している方たちが次々に廃業されていくのを目の当たりにしました。歌舞伎座で使われていたすだれの職人さんも廃業に追い込まれましたし、銀座でお教室を開いていた方なんかも廃業されていたんです。話を聞いてみると、「高齢化で後継者がいないという問題の中で、そもそも収益化が難しくお金がないところで何とかやっていかないといけないのを身をもって感じているからこそ、若い人たちに簡単に勧められない。だから後継者も育てられない。」そんなことをおっしゃる方が居て。それをきっかけに国内での日本文化の需要やそれを披露したり技術を活かすフィールドがすごく少ないことに気が付きました。

例えばここのお琴教室からすごく上手な子が出てきたとして、それを披露する場は決して多くありません。大会やコンクールで賞をとっても、それがどれだけのことなのか世間には知られていないので、そこからなにかに繋がっていくというのも難しいことだと思います。サッカーだったらJリーガーだったらすごいとか、野球だったらあの選手がすごいとか、あるじゃないですか。日本文化にはそういう共通認識みたいなものが少ない、ほとんどないに近いのではないでしょうか。一方国外では、日本古来の伝統文化や技術自体がすごく高く評価をされて、近年、需要が上がってきています。そこに着目したんです。

国内の日本文化の需要を増やしたい

国内の日本文化の需要を増やしたいろじこやを舞台に日本トップレベルの日本文化を外国の方にも伝えていき、高く評価してもらうことで国内にもそのことが伝わります。ここで文化を伝える方たちの名前や活躍が知られていくことで、興味を持つ方や日本文化を伝える立場をめざす方をはじめ、イベントなどで披露してほしいと考える人、つまりは国内の需要も増えるんじゃないかと考えました。あと、日本の伝統文化・芸能の世界ってどうしても年功序列の部分が今もあります。でも年功序列という考え方は国外では薄いですし、年齢や歴に関係なく実力のある人が評価されるという価値観の国が多いです。なので「ろじこや」をとおして、そこに日本の若い人たちの技術を売り込み評価してもらう。国外の評価を受けて、日本にはこんなすごい人やおもしろい文化があるんだ」ということが国内にも広まるといいと思っています。そのような考えの基、日本文化を伝えていくうえで、国外向けのコンテンツを用意するようになりました。

海外の方は日本の心を知りたいと言ってきてくださる方がとても多いんです。なので、自分を見つめなおす「書道」ですとか、武士道がその根底にある「侍体験」などを多く行っているんです。日本古来の精神性的な部分をお伝えできるコンテンツを提供できるようにしています。

 

地域と連携!インバウンド協議会を設立

地域と連携!インバウンド協議会を設立-1

地域と連携!インバウンド協議会を設立-2

外国の方へのPRをしていく中で、地域で取り組んでいきたいという思いから「足立区インバウンド推進協議会 ANABA JAPAN ADACHI」を設立しました。「ろじこや」で和文化を体験した後、「この次はどこに行けばいいですか」と聞かれることがよくあるんです。その時に、ココだけじゃなくて地域と連携して千住のまちをまるごと観光資源にできないか、と考えました。はじめは、地域の老舗のお菓子屋さんや地元企業と連携してコンテンツをつくっていこうという活動でしたが、最近では私たちが協議会を通してつくってきた和文化を体験できるコンテンツの情報を観光庁や旅行代理店に提供するという活動も増えてきています。

千住を世界に知られるまちにしたい

空き家を壊す理由は、耐震の問題とか建築法の問題とかいろいろな部分にあると思います。もちろんそれはすごく大事なことですが、歴史を積み重ねた空き家や古民家を一度壊してしまえば、その家が元々持っていた雰囲気だったり当時の建築の個性を再構築するのは、ほぼ不可能です。失われてしまえば元に戻らない、これは文化と同じですね。なので壊して失くしてしまう前に、「もう本当に使えないのか」「なにか活用できる術はないのか」という部分を考えるということもすごく大事なことの1つなんじゃないかと思います。

千住は新しいものもたくさんあれば、こういう古民家も残っている魅力的な地域です。それを活かした活動が増えていくと、また1歩、千住がおもしろいまちになっていくと思います。国外の方との関わり、観光庁との活動などを通して、ゆくゆくは千住を世界に知られるまちにしたいというのが、今の目標です!

千住を世界に知られるまちにしたい

 

 

仲町の家(千住仲町29-1)

築約100年の日本家屋をそのまま活用。平成30年から足立区・東京藝術大学・NPO法人音まち計画の3者連携による「音まち千住の縁*」が運営する文化サロンとして、人と人・人と文化をつなぐ拠点となっている。

*アートを通じた新たな縁を生み出すことをめざす市民参加型のアートプロジェクト

仲町の家
https://aaa-senju.com/p/10011

 

アートアクセスあだち 音まち千住の縁 事務局 ディレクター
吉田 武司(よしだ たけし)さん
吉田 武司(よしだ たけし)さん

アートがつないだ縁で出会った家屋

足立区・東京藝術大学・NPO法人音まち計画の3者が協働で行う「アートアクセスあだち音まち千住の縁」というまちなかでアートを行うプロジェクトのディレクターを2011年からしています。以前は千住の柳原にあるマンションの一室を「音まち」の拠点としていましたが、マンションということでなかなか開けた場所にはなりませんでした。そこで新たな拠点を探していた時に、この物件のお話をいただきました。

アートがつないだ縁で出会った家屋2015年、音まちの立ち上げ当初から一緒に活動しているアーティストが、音まちとは別に一軒家を丸々1軒使った作品をつくろうとしていたんです。それで僕も協力して探して見つけた物件がこの仲町の家の裏にある物件。2階建ての建物だったんですが、天井を全部ぶち抜いて吹き抜けにして、そこにシャボン玉が一つだけ落ちてくるっていう作品をつくりました。その「くろい家」の大家さんに、ぜひこの作品を見てもらいたいということで来ていただいて、そこで「今こういう空き家の活用の仕方があります」ということをご説明しました。その方が、その「くろい家」の裏にある今の「仲町の家」の大家もしていて、「ここを使ってはどうか」と声をかけてくださったんです。そのような経緯で、この仲町の家が「音まち」の拠点になったのは、2016年のこと。現在では、「音まち」の拠点として地域に開かれた場所になっているのに加え、ここで空間を活かした展示や公演が行われるなど、人と人とのつながりの場になっています。

 

千住の歴史を見てきた家をそのまま活かす

この住宅は、千住の南部地域の開発人といわれた方の分家で、そのご子孫が大切に守ってこられた日本家屋です。大正末期に起きた関東大震災で傾き、建て替えられたそうですが、部材はそのまま再利用されたと伝わっています。戦争でこのあたり一帯の家屋の多くは焼けてなくなったそうですが、この仲町の家の西口の門で火が止まった、貴重な建物です。大家さんは、この家に元々住んでいた叔母にあたる4人姉妹から「千住の歴史をみてきたこの家を守り、手をあまり入れず、この姿を活かし、残してほしい」と託されたそうです。その姉妹の最後のお1人が亡くなる2005年まで、住居として使われていたそうです。そのあと、介護事業者に貸していた時期もあったそうですが、「くろい家」との関わりもあり、音まちに貸したいと思うようになったと大家さんからはお伺いしています。

千住の歴史を見てきた家をそのまま活かす-1

千住の歴史を見てきた家をそのまま活かす-2

ここを拠点にするにあたって、畳を変えたり一部修繕はしましたが、ほとんど元のまま使っています。構造的にもなにもいじっていないので、そのままです。釘隠しといった当時の建築で用いられた装飾などが見られるポイントもそのまま残っています。縁側がみえるガラスも当時のままです。横からよく見ると外の景色が少し歪んで見えますよね。これは昔のガラスの特徴で現在ではほとんど作られておらず、最近の建築では見られない貴重なものだと聞いています。お庭もとてもきれいなのですが、これも当時の形をほぼそのまま残しています。ここに来た際は、ぜひ縁側に座ってお庭を眺めてほしいです。

「文化サロン」の楽しみ方は様々

現在、「仲町の家」は土曜日・日曜日・月曜日と祝日の午前10時~午後5時まで、入場無料で基本的には誰でも入れる形で開いています。「音まち」は文化やアートを通して人と人との縁をつなぐことがテーマなので、仲町の家でもフラッと来た方が、いろんな人やコトと出会えるといいなと思っています。この家屋の魅力を味わってもらうというのも1つの楽しみ方です。この建物の魅力に引き寄せられてくる方が本当に多くいて、建物の魅力が多くの人に出会わせてくれているなと感じています。あと、ここにはコンシェルジュというスタッフがいますので、コンシェルジュと千住についてなどの話をするというのも楽しみ方の1つ。ほかにも、過去にワークショップで出来た作品やギターなどが置いていますし、趣味を持ち寄れるようなこともできるので、そういう楽しみ方もアリです!「アート」とか「芸術」とか言ってしまうと、親しみのない方からすると敷居が高く感じるのかなと思います。なので仲町の家ではそういう言葉は使わずに、「文化サロン」と呼び、より多くの人と出会えるようにしています。

「文化サロン」の楽しみ方は様々-1

「文化サロン」の楽しみ方は様々-2

「文化サロン」の楽しみ方は様々-3

 

仲町の家を舞台に挑戦できる

音まちが企画してイベントや展示を行うほかにも、この場所に来て魅力を感じた方たちと一緒にこの場所の使い方だったり可能性を広げていきたいと思っています。そのために、「パイロットプログラム」という枠をとっていて。この場所に来て何かやりたいとかアイデアが思い浮かんだ方は、私たちにご相談いただいてスタッフと一緒に話しながら企画をつくっていくんです。年々使ってくださる方も増えていて、今では、ほぼ毎月何かしら開催しています。東京藝術大学の在学生や卒業生が使うこともありますし、地域に住んでいる方が企画をすることもあります。あとは、区外の全然違う地域から来た人がここに魅力を感じて演劇の公演やコンサートをしたりすることもあるんですよ。

千住のまちの動線を変えたい

既に100年の歴史がある建物ですので、つながった縁を仲町の家の中だけで留めるのではなくて、もうちょっと外のまちにも広げていきたいです。例えば、ここの向かいにある神社と一緒に何かイベントをしたり、近くのBUoYと一緒に何かやるとか。今でも少しやっているところではありますが、そういった動きをもっと一緒に広げていきたいと考えています。ここに来たばかりの頃、「まちの動線を変えたい」と考えていたんですよね。千住って多くの人が駅前の商店街や飲み屋横丁に行って終わりだと思います。ここは駅から離れていて、10分は歩かなきゃいけない。「仲町の家」に来るということ自体、既にみんなが主に使うルートから外れていることになります。「仲町の家」やその周りの施設が一体となってイベントや企画を行うことで、こっちに人が来ればまちの動線が変わる。そうすると今までの動線では見えてこなかった千住の新しい顔とか魅力とかを見つけてもらえるんじゃないかなと思うんですよね。今は駅前が特に賑わっている状況ですが、いろんな方がこっちの方まで歩いてくることでこのあたりならではの活気や賑わいが出てきてほしいです。

千住のまちの動線を変えたい千住のまちの動線を変えたい-3

千住のまちの動線を変えたい-2

 

 

BUoY(千住仲町49-11)

2階は元ボウリング場、地下は元銭湯という歴史を持つ物件を改装して活用。展示や演劇・ダンスなどの公演を開催できる場所に姿を変え、社会的にメッセージ性のある先鋭的なアートを多く紹介している。

BUoY
https://buoy.or.jp/

 

芸術監督 岸本 佳子(きしもと かこ)さん
千住独特の魅力的な雰囲気のなかで

出会った当初は倉庫のような場所だった

この物件との出会いは、本当にたまたまでした。知り合いのギャラリーに遊びに行ったら、「千住にスペースがあるから使わない?」と誘われて。当初アーティストのアトリエにするという話があったようなのですが、それだとどうしても収益化していくことが難しいんですね。では、劇場だとどうかという話になり、構想が膨らんでいきました。なので私は、何かをはじめようとか、はじめからそういった思いを持っていたわけではないんです。まさか、自分で場所をつくるというところから事業をはじめるとは夢にも思っていませんでした。

出会った当初は倉庫のような場所だった

私がはじめてここを見に来たとき、2階の床には埃が分厚く溜まっていて、その上を歩いたらはっきり足跡がついてしまうくらいの状態。以前ボウリング場として使われていた痕跡は全然見えなくて、言われなかったらわからなかったです。地下は本当に真っ暗。懐中電灯であたりを照らしながら、お化け屋敷のように少しずつ進んでいきました。銭湯の痕跡はそのままでしたが、置いてあるものは、前のオーナーさんの私物やよくわからないものばかり。放置された倉庫のような場所でした。

いろいろな方とのつながりのおかげで今がある

倉庫状態だったこの場所を、大体1年くらいで今の形にしました。準備期間も短かったですし、いろいろな方たちと協力しながらだったから、立ち上げまで漕ぎつけられたと思います。最初は少ない人数でしたが、知り合いが知り合いを呼び、どんどん大きくなっていきました。内装もその中で出会った若い建築家の方が手掛けてくださいました。コンクリート打ちっぱなしの場所に、木の温もりを入れたデザインです。きれいに整えすぎず、廃墟のようだったころの面影を残したまま空間の個性を活かしています。

いろいろな方とのつながりのおかげで今がある

いろいろな方とのつながりのおかげで今がある-2

いろいろな方とのつながりのおかげで今がある-3

ここにあるイスや机も、管理会社の方を通じていろいろな方に譲っていただきました。大きな机は養護学校で使わなくなったもの。よく見ると学校の図工室とかで見たことがある形ですよね。イスは、元お蕎麦屋さんの方から譲っていただいたと聞いています。ほかにも、窓際につるしてある飾りはここに来てくれたアーティストの作品です。私が気に入って買ってきたものもありますが、ここに置いてあるものはどこかから譲ってもらったものが多いです。本当に、いろいろな方とのつながりがあって今のBUoYがあります!

空間の面白さ+メッセージ性のあるコンテンツ

空間の面白さ+メッセージ性のあるコンテンツ-2

空間の面白さ+メッセージ性のあるコンテンツ-2

BUoYでは、2階の半分を木~日曜日まで「BUoYカフェ」として営業しています。もう半分はギャラリーとしての営業です。地下は、元銭湯の雰囲気を活かして、演劇やダンスの公演に使っています。各コンテンツの内容は、多様性だったり、コロナ禍の世間の動きに対してだったり、社会的に明確なメッセージがあるものがほとんど。こういったものを積極的に扱うことで、この空間自体に意味が出てきます。また、今の世の中において雑多な人たちが集まって、社会的にメッセージ性のある自己表現ができる場があること自体が重要だと考えています。前段でお話した空間の面白さ+メッセージ性のあるコンテンツのマッチングがBUoYの最大の魅力です。

千住独特の魅力的な雰囲気のなかで

 芸術監督 岸本 佳子(きしもと かこ)さんこの事業を千住で7年やってきて思うことは、「足立区以外だったら出来なかったかも」ということ。日本は、海外と比べると実験的な取り組みや社会的に問題提起をするようなことに許容度が高くない社会だと感じています。そういった風潮の中で行政がBUoYの取り組みを歓迎してくれて応援もしてくれるのは大きいですし、予想外でもありました。区長も数回来てくださり、ポジティブにとらえていただいているんだなと感じます。

それから、今の東京都内って「地元」がだんだん無くなってきていますよね。タワーマンションが建ったりとか、大きな商業施設に変わったりとかで、元からあったものが失われつつある。でも、この千住は、元気な商店街もあるし、「地元」が残っている地域だと思います。都心から少し離れた千住は、外から来るには若干ハードルがあるとは思います。アクセスは良いんですが、心理的距離があるというか。ただ、1回千住に来さえすれば、「地元」のような安心できる雰囲気の飲み屋横丁みたいな場所もあるし、BUoYもその1つですが、アートスペースもたくさんできてきています。いろいろなことを楽しめるまちですよね。都心では味わえない空気感や、古いものも新しいものも許容するような独特の魅力的な雰囲気があるという意味でも、足立区・千住でやって本当に良かったと思います。

BUoYのこれから

BUoYのこれから

BUoYをオープンした当初は、自分が続けられる限りずっとこの事業を続けていきたいと考えていました。それをめざして「とりあえずは10年」と決めていたので、そこは変わっていません。でも今は、10年やりきってタイミングが来たらBUoYをもっと若い人に運営していってほしいと思っています。もっと若い目線で、新しいことに順応した形でここを活用していってほしいんです。

「アート」というと敷居が高く感じる方もいると思いますが、BUoYにはカフェもあります。最近は若い方も多くいらっしゃって特に土日は賑わっています。カフェでおいしいコーヒーを飲んだり、空間自体も建物の歴史を残した芸術作品なので、その空気感を味わいに、気軽にBUoYに来てください!

BUoYのこれから

 

 

 

せんつく(千住寿町14-7)

10年ほど空き家だった築85年の古民家を改装して活用。「つくる」をテーマに割烹料理店など4店舗が集結し、ワークショップやイベントなどを開催。駅から離れた地域住民の交流の場となっている。

せんつく
https://www.sentsuku.com/

 

建築家「せんつく」管理人
青木 公隆(あおき きみたか)さん
青木 公隆(あおき きみたか)さん

築85年、千住の古民家との出会い

築85年、千住の古民家との出会い大学・大学院で建築を学んだ後、組織設計事務所に4年間勤めました。その後、独立して、千住地域で建築設計事務所を開設した2017年ごろ、足立区の「北千住駅東口地域 空き家利活用コーディネート業務」のプロポーザルの募集を見かけました。このプロポーザルは、北千住駅東口地域の空き家を活用して、まちづくりを進めるモデル事業です。当時、私の建築設計事務所が北千住駅東口側にあったこともあり、プロポーザルに応募しました。結果、採択されたことで、現在の活動の原点である「千住Public Network EAST」がはじまり、本格的に千住地域の空き家利活用が始まりました。

今の「せんつく」として活用しているこの建物との出会いも同じころ、2018年のことです。北千住駅東口地域を中心に千住地域の住民や不動産業者、飲食店の方々などと連携しながら、空き家利活用の取り組みを行っている最中でした。今の「せんつく」の大家さんに出会って、「実家が空き家になっており、うまく活用したい」という相談を受けました。この物件は、築85年ぐらいの古民家で、約10年間、空き家の状態が続いているとのお話しでした。私自身も、空き家利活用という具体的な物件にて実践し、生まれ変わる空き家を千住地域に根差した場所にしたいと思っていました。この出会いが「せんつく」のプロジェクトのはじまりとなりました。

古民家ならではの魅力を残して活かす

改装する際にこだわったのは、築80年を超えた古民家ならではの空間的な魅力をできる限り残して活かすという点です。柱も天井の梁も、とてもしっかりとした部材だったので、見えるように活用しました。その他では、2階の窓際にある建具にはガラスが嵌められていて、雪見障子のようになっています。雪見障子の建具は、今の住宅では中々見ることができません。さらに面白いことに、その障子の一番下の一区画が引き戸のように開閉できます。私もこのような仕様の建具は、この建物ではじめて見ました!とても貴重なため、障子も含めて、大切に残しています。建物の古き良き部材や建具がたくさん残っているのが「せんつく」という建物の特徴です。「せんつく」にお越しいただいた昭和世代のお客さんからは「おじいちゃん・おばあちゃんちのようで懐かしい、落ち着く」と言ってもらえますし、今の若い方からは「新鮮」という声が聞こえてきます。今の若い方のおじいちゃん・おばあちゃんは、一般的な一戸建てとかマンションに住んでいるというのも珍しくないから、「せんつく」のような古い様式の住宅に馴染みがあまりないかもしれません。そのため、この「せんつく」の空間を体験して頂くことで、日本の昔ながらの住宅建築とか懐かしい空間を伝えていきたいという思いもあります。「みんなで歩くと床がギシギシ鳴っちゃう」とか「2階に上がる階段がやたらと急」とか、そのような住宅も今だと珍しいですから(笑)。実際に自分で体験してもらって、各々なにか感じてもらえるととても嬉しいです。

古民家ならではの魅力を残して活かす-2

古民家ならではの魅力を残して活かす-3

古民家ならではの魅力を残して活かす-1

 

「せんつく」を商店街のような存在へ

最近は、「せんつくを10拠点つくること」を目標にしています。最初はそのような考えはありませんでしたが、「せんつく2」をオープンした頃に、自分自身の考えに変化が出てきました。この「せんつく」をモデルにして、駅から離れた地域のまちづくりを展開できるのではと思いはじめて、千住地域に「せんつく」を10拠点つくることを目指すことにしました。でもただ単にキリが良いという理由で「10」ではなく、この千住地域の郵便局がちょうど10箇所あります。私が思うに、郵便局は、その地域の住民のニーズを満たすために、程よい距離感で分布していると思います。「せんつく」も郵便局のように公共性のある存在になれたら良いなと思っています!

「せんつく」を商店街のような存在へ-1

「せんつく」を商店街のような存在へ-2

「せんつく」を商店街のような存在へ-3

また近年、北千住駅から離れた地域では、商店の著しい減少や、それに伴う地域コミュニティが失われてしまうこと、不動産価格の上昇に伴って個人事業者や若い世代の活躍の場が減ってしまうことが危惧されています。「せんつく」は、街から失われつつあるものに変わる存在にしたいと考えています。「10」を目標に「せんつく」を丁寧につくっていき、「せんつく」が将来の千住地域の生活を支える存在になってほしいと思います。

2022年12月、「せんつく2」をオープン

「せんつく2」は足立成和信用金庫と(一財)民間都市開発推進機構(MINTO機構)とが共同出資で組成した「千住まちづくりファンド*」の第一号の事例です。「せんつく」がオープンしたころ、足立成和信用金庫の担当の方から「千住まちづくりファンドを将来つくりたいと考えている」という旨のお話をお聞きし、ファンド組成の条件を鑑みながら、2~3年間かけて「せんつく2」のオープンに向けて動いていきました。

*千住地域が抱える「空き家」や「空き店舗」増加の課題解決に向け、創業者への円滑な資金支援などを通じて、「空き家」や「空き店舗」の利活用促進を図る

2022年12月、「せんつく2」をオープン

「せんつく2」の取り組みは、仲の良い不動産業者さんに、空き家で困っている大家さんを紹介して頂いたことに始まります。大家さんに初めてお会いした際に、「せんつく」をすでにご存知でして、千住地域のまちづくりや空き家利活用について共感して頂いたことが、とても嬉しかったです。その後、何度かお話を進めるうちに、「せんつく2」として事業を進めていくことが決まっていきました。

今でこそ、きれいな外観の「せんつく2」ですが、当時は老朽化した空き家でした。しかし、「まちづくりファンド」の組成によって工事資金を十分に融資することが可能となり、耐震や耐火性能を向上させる工事を実施することができています。「せんつく」はつくるをコンセプトに始まり、「せんつく2」は、近隣に中学校があることや通学路に隣接しているので「学ぶ」をコンセプトにつくり、地域との接点を増やしていきたいと思っています。

忘れてはいけない「安全性」

忘れてはいけない「安全性」空き家利活用はまちづくりとして、注目を集める一方で、空き家には色々な課題があります。例えば、千住地域に存在する空き家は、築年数が古く、耐震という観点で見ると現行の基準を満たしていない「旧耐震」という扱いになります。能登半島地震の被害状況が示しているように、旧耐震の建築物は地震に対しては脆弱です。そのため、建築の専門的な観点から空き家を見ると、「空き家利活用では、旧耐震の物件をなぜわざわざ残すのか」という疑問も出てきます。一方で、空き家が増え続けるというのは、地域の空洞化が進行し、コミュニティの衰退や危険空き家等の問題につながります。空き家利活用は、まちづくりという観点と安心安全という防災上の観点の両方をきちんと理解し活動を進めないといけません。非常に難しいことですが、空き家利活用の事業や活動を通じて、この矛盾する課題を乗り越えることをいつも考えています。この「せんつく2」はまさにその2つを両立したモデルです。築70年を超えた物件ですが、耐震改修を大々的に実施し、「新耐震基準」を満たした物件としました。また、まちづくりとしては、飲食店や学習塾が入居し、地域に根差した活動の場として活用されています。古き良きものを残し、そこにコミュニティを築いていくことも地域にとっては大事なこと。ですが耐震や防火という「安全性」も絶対に忘れてはいけない重要なことです。

今後の事業の展開としては、大規模に改築した「せんつく2」と、より古いものの温かみを活かした「せんつく」の中間ぐらいの費用感で工事できる汎用性のあるモデルにしたいと思っています。若い方が空き家利活用しようと思ったときに参照されるような、耐震壁の入れ方とか、ちょっとした工夫で耐火性能が上がるとか、そういう見本になるものを生み出していきたいです。

 

「空っぽって楽しい!」と思うポジティブな発想

空き家というと、色々な問題もありますし、負の側面が強いと思われていますよね。でも「空っぽって楽しい!」と思うと発想が広がります。空っぽであるということは、色々な人や出来事が入っていく余地がある。なので、空き家の多い千住地域には、将来の千住のまちづくりを担っていく新たな若い方たちが入って来られる場所がたくさん眠っているということです。その入り口として、まずは「せんつく」や「せんつく2」に来てほしいと思います。

「空っぽって楽しい!」と思うポジティブな発想

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