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公開日:2026年3月26日 更新日:2026年3月27日

和食店経営にワケあり

株式会社八十嶋 代表取締役専務 三國忠行さん

日の出町団地からはじまった

僕がまだ幼稚園児だったころ、両親が千住で事業を始めたのが、八十嶋グループの始まりです。もともと板前だった父は一緒に遊んでくれるようなことは全く無く、とても怖かったです。知人からは「高性能CPUを積んだブルドーザー」と言われるほど、緻密な計算ができて推進力もある、世間よりも5年10年先を行っているような人でした。現在グループの社長である母はとにかく情が深い人間です。息子である自分に対してはもちろん、他人に対しても人の3倍ぐらい情が深い。2人とも人間としてすごく特殊で、素直にすごいなと思いますね。

はじまりの場所は、当時住んでいた日の出町団地。1階の魚屋さんの一角をお借りして巨大な水槽を置き、父の伝手で仕入れたカニを販売する「明日香水産」を1989年に立ち上げました。その翌年、近所の学園通り商店街の一角に小さな和食店「明日香」を開業。当初はお客さんが入らず、知り合いにお願いして来店してもらうこともあったそうです。千住の人の温かさに助けられましたね。おかげさまで下北沢と宇都宮にも続けて和食店を開くことができ、1992年に「味問屋 明日香本店」を千住旭町に開業しました。板前たちが宮大工とともに作り上げた数寄屋造りの空間で、本格的な日本料理を肩肘張らずに楽しめるお店です。

オープンキッチンならではの臨場感が魅力の、明日香本店1階カウンターにて

店長の中村さんに店内の個室を案内していただいた

小庭を望む小窓と床面の琉球畳が目を引く2階の個室。利用者のニーズに合わせた8つの完全個室が用意されている

窓枠に使われているのは、先代が古民家を丸ごと買い取って集めた高級竹材の「煤竹(すすたけ)」。囲炉裏の煙で長い年月をかけて燻されることで生まれる深みのある色合いが特徴。内装の隅々までこだわりが詰め込まれている

重厚感のある4階の大部屋。天井には煤竹がふんだんに使われている

 

1993年に団地で仲の良かったお店からスペースをお借りして工房を作り、当時東京ではまだ珍しかった湯葉や生麩づくりも行うようになりました。僕が生まれる直前に父が病気になったのですが、療養食として食べた精進料理がヒントになったそうです。2010年に工房を移転し、「宇豆基野本店」として開業。原材料や製法にこだわった湯葉や生麩を中心とした板前の料理が楽しめる、土日祝日限定のブランチが人気です。

完全予約制のブランチでは、出来立ての湯葉を自分ですくって味わうことができる

千住のまちに育てられた僕の原点

子どものころ、両親は仕事が忙しくてほとんど家にいなかったので、兄弟喧嘩をしたときは家を飛び出して両親の店に逃げ込んだりしてました。近所のお店や団地の人たちには本当に良くしてもらって、夕飯を食べさせてもらうこともたびたびありました。千住のまちは、僕にとっては「家」みたいなものですね。

大学卒業後、六本木ミッドタウンの「淡悦」という系列店のオープン立ち上げに携わりました。つい先日まで学生だった自分にとってはまるで戦場で、とにかく大変な現場でした。その後は神戸の酒蔵で酒造りや営業を学んだり、北海道や自由が丘の寿司店で修業を重ねました。当時、家業を継ぐってちゃんと決めてたわけではなかったのですが、何となく自分が継ぐんだろうと思っていました。「広く浅く」ではありますが、現場の調理からサービス、お酒の知識まで一通り経験してきたことは、今の僕の財産になっています。

修業を経た後、父と反りが合わなかったのもあって、家業から離れていました。しかし、2024年に父が亡くなったことで女将である母の負担が大きくなり、少しでも助けられたらという思いで店に戻ることに決めました。

一人ひとりが職人として輝けるステージを

僕たちの会社の社訓は「日本料理の技術と文化の継承」ですが、真の目的は「人を育てること」なんです。若い職人たちには、様々な経験をすることで“腕”にいっぱい貯金をさせてあげたい。板前にはコミュニケーションが苦手な人もいますが、挨拶や受け応えといった社会人の基礎から、自分で物事を考える力まで身に付けてもらう。そうすることで、人生の節目に立った時の選択肢が狭まらないようにしてあげたいんです。書道や茶道、華道、俳句などの日本文化も学んでもらうようにしています。日本に古くから伝わる暦の二十四節気に合わせ、職人たちが自身の学びを独自に表現した面白い料理を出してくれますよ。

2026年2月の明日香本店のコース料理の八寸。可愛らしい器に入った、春を先取りする食材を使った料理は、和食ならではの「旬の走り」が体現されている

銀座で「つるとかめ」という和食店もやっているんですが、そこは女性だけの店なんです。和食の世界では女性の板前はまだ珍しいですし、結婚や出産を機に現場を離れてしまう人が多い。でも、彼女たちの繊細な感覚や視点は素晴らしい財産で、男社会の中で単なる店の歯車になってしまうのはあまりに惜しい。だから、女性だけで店を切り盛りし、出産や育児を経ても板前として働き続けられるモデルケースを一緒に手探りで作っているところです。2023年にはミシュランガイドに掲載いただくまでになりましたが、このモデルケースを次の世代に引き継いでいくためにも、今がまさに正念場だと思っています。

若い男の子たちにも新しい挑戦の場を作りたいと考えています。いつか、若手の職人が交代で料理長になる店を作りたいんです。そこでは、たとえ失敗したとしても、自ら考え、決断する経験ができる。失敗を知ることも一つの大きな勉強ですからね。

八十嶋グループの職人たち。カウンター席では彼らの熟練の手捌きを間近で感じられる

新旧が入り混じる千住のまちと和食の未来

イギリスの中学校に通っていたのですが、当時日本の文化について聞かれても答えられず、「なぜ日本人なのに日本のことを知らないの」とよく驚かれました。若い世代の和食離れが取りざたされていますが、僕は和食をはじめとした素晴らしい日本の文化を次の世代に引き継ぎ、しっかり残していきたい。若い世代の方々にも「和食のカウンターに座る格好良さ」を知ってほしいですね。職人が技術を磨き、お客様に最高の還元ができる店にしていきたいというのが、グループの後継者としての僕の理想です。

千住は今、大学が増えて若い人が多くなりましたが、僕はただの学生街になってほしくはない。あまり綺麗になりすぎちゃってもつまらない。新しいものを取り入れつつ、昔ながらの良さもしっかり残っている「新旧が入り混じったまち」であってほしいと思います。かつて僕を育ててくれた千住の人やまちの温かさ、親子三代で通ってくださるような地元のお客様とのご縁を、これからもずっと大切にしていきたいと思っています。

 

プロフィール:みくにただゆき

足立区千住出身。「味問屋 明日香本店」をはじめとした和食店を足立区内外に多数展開する、株式会社八十嶋の代表取締役専務。事業を立ち上げた両親の跡を継ぐため、2024年に現職に就任。父親譲りの男気と義理人情を胸に、和食文化の継承と職人の育成を目標とした事業運営を行っている。

 

<足立区内店舗>

味問屋 明日香本店(外部サイトへリンク)
 足立区千住旭町27-1

 

・宇豆基野本店
 足立区千住東2-2-1

 

・泊舟
 足立区千住3-92 北千住マルイ9F

 

・宇豆基野 北千住マルイ店(物販のみ)
 足立区千住3-92 北千住マルイB1F

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