足立区第3期データヘルス計画、第4期特定健康診査等実施計画についてご説明します。 この計画はこれまで、国民健康保険法による「データヘルス計画」、高齢者の医療の確保に関する法律による「特定健康診査等実施計画」の、2つの異なる法律のもと別の冊子として策定していました。 このたび、両計画を改定するにあたり、国民健康保険加入者の「健康寿命の延伸と医療費の適正化」という共通の目的を達成するために、これら2つを統合して1冊の冊子として策定することになりました。 以降、計画を「データヘルス計画」と呼ばせていただきます。 まず、計画改定の背景と趣旨から説明します。 日本は、全ての国民が健康保険に加入する「国民皆保険制度」のもと、高い医療水準によって平均寿命が着実に延伸されてきました。しかし、少子高齢化の急速な進行や生活習慣病罹患者の増加によって医療費が膨れ上がり、財政運営が危機的状況になっています。今後も医療制度を維持していくために、医療費適正化の取り組みが重要課題となりました。 全ての保険者は、データヘルス計画を策定し、効果的・効率的に保健事業を展開することが求められています。具体的には、保険者が持つ加入者の健康診断結果や診療報酬明細書(レセプト)などの健康、医療に関する情報を活用して根拠のある健康施策を策定し、PDCAサイクルを回して毎年度事業のチェックと改善を行い、成果を出していくことが求められています。 このため区においても、健康や医療の情報を十分に活用し、また高齢化や産業などの区の地域特性も踏まえながら、保健事業の実施計画「足立区データヘルス計画」を策定します。今回の改定は3期目、令和6年度から令和11年度までの6年間の計画となります。 次に、データ分析から見えてきた主な健康課題7つについて、ご説明します。 1つ目は、法に基づき40歳以上を対象に行っている健康診断(特定健康診査)の受診率が低く、生活習慣病の予防や、早期発見につながっていないことです。特に40歳代から50歳代の受診率は27.6%と低く、この世代の受診率を上げることで、健康診断の目的である、自らの健康状態を把握し、生活習慣病の予防や疾病の早期発見、早期治療につなげる人を増やしていく必要があります。 2つ目は、同じく法に基づき実施している特定保健指導の終了率、すなわちプログラムに参加し、最後まで参加を終えた人の割合が低いことです。令和3年度は5.9%でした。 特定保健指導は、特定健診の結果から、生活習慣病の原因である内臓脂肪が過剰に蓄積されている状態(メタボリックシンドローム)や、血圧上昇、高血糖、脂質異常等がみられる状態の人を抽出し、この人々に生活習慣改善を促す保健指導を行って、生活習慣病を未然に予防してもらうことを目的として行われます。利用者を増やすことが課題となっています。 3つ目は、生活習慣病になりやすい生活習慣を持つ区民が多いことです。40歳代から50歳代の働き盛り世代ほど、運動不足や朝食抜きなどの生活習慣になっており、メタボリックシンドロームに該当する人が多く、男性では36.7%にのぼります。この状態を放置すると、全身の血管が固く詰まりやすくなる状態の「動脈硬化」のリスクが高まり、心筋梗塞や脳梗塞の原因になることがわかっています。 4つ目は、糖尿病や高血圧などの予防が可能な疾病によって、医療費が引き上げられている可能性があることです。生活習慣病にかかる1人当たり医療費は、東京都や国の平均よりも高額になっています。また生活習慣病の重症化によって起こる、脳血管疾患や虚血性心疾患、人工透析治療などの医療費も東京都や国の平均よりも高くなっています。医療機関の受診状況をみると、男性は30歳から60歳までの若い人は外来受診している人が少なく、60歳以降に入院している人が多くなっています。このことから、男性は症状が現れるか、悪化してから受診しているのではないかと推察しています。 このため、健康診断の結果、何らかの異常の所見が認められたにも関わらず未受診の人や、生活習慣病の治療を中断している人への対策を強化して早期受診を促し、生活習慣病の発症と重症化を未然に防いでいく必要があります。 5つ目は、がんは高い死亡率にも関わらず、国が推奨する5つのがん検診(肺がん、大腸がん、胃がん、乳がん、子宮頚がん)の受診率はどれも低く、早期発見、早期治療につながっていないことです。 がん検診の普及啓発をより推進し、がんによる死亡率を減少させるとともに、重症化してから発見されてより重くなる身体への負担や、生活、就労などへの支障、高額になる医療費を抑制していく必要があります。 6つ目は、ジェネリック医薬品普及啓発や、重複、多剤服薬などの「適正服薬対策」は、今後も継続が必要とされることです。 ジェネリック医薬品(後発医薬品)は、先発医薬品の特許が切れた後に、同等の品質で製造、販売される医薬品です。先発医薬品に比べて開発コストが抑えられるため、価格が安くなるというメリットがあり、利用の推進が求められています。 重複服薬は、複数の医療機関を受診し、同じ効能の薬が重複して処方され服薬すること、多剤服薬は、必要以上に多くの薬が処方され服薬することを指します。これらの服薬は、健康障害や医療費の増加につながるため、適正化の観点から指導介入を行うことが求められています。 7つ目は、効果的な介護予防事業を推進するために、高齢、介護部署との連携を強化していく必要性があることです。 区は高齢化が進んでおり、令和4年3月31日時点の高齢化率は24.7%となっています。平成29年以降、後期高齢者数(75歳以上)は前期高齢者数(65歳から74歳)を上回り、さらに増加しています。介護保険制度における要介護認定率は年々増加しており、今後さらなる介護、医療費の増加、介護、医療サービスの大幅な不足が予想され、より効果的で効率的な予防対策が求められています。この場合の「予防対策」は、不健康な期間を短くすること(要支援や要介護状態になる時点を遅らせること)を指しています。 区の健康寿命は10年前から男女ともに2年延伸しました。 後期高齢者医療制度健康診査 (75歳以上を対象とした健康診断) から把握した高齢者の健康状態では、噛むことや飲み込む機能(咀嚼、嚥下機能)の低下、筋力の低下、認知機能の低下を自覚している人は1割から2割を超えており、健診に出向くことが可能な比較的健康と思われる人の中にも、要介護リスクが高い人が含まれていることがわかりました。 診療報酬明細書(レセプト)から把握した、総医療費の多くを占める疾病は、男性では生活習慣病、女性では骨折や関節疾患となっており、男女で異なります。 このため、健康や医療に関するデータを最大限活用して、保健センターや地域包括ケア推進課などの高齢、介護部署と情報を共有し、連携を強め、効果的な介護予防事業の推進に活かしていくことが求められます。 最後に、第3期計画における保健事業(11項目)の実施戦略についてご説明します。 1、「特定健診、特定健診受診再勧奨事業」では、特に40歳代から50歳代の男性を重点的に、健診受診勧奨通知を送付します。 2、「特定保健指導、特定保健指導利用再勧奨事業」では、早期保健指導実施機関の増加を目指します。特定保健指導は、健診受診から参加までに2から3か月ほど要していました。早期保健指導実施機関(通常より早くに保健指導を受けることができる医療機関)では、早ければ健診実施日の翌日から6週間以内に保健指導を受けることができるようになります。これによって、生活改善の意識が高い、健診後早いタイミングで支援が受けられるメリットがあり、利用率増加が期待できます。 3、「医療機関受診勧奨、再勧奨、治療中断者への医療機関受診勧奨事業」では、40歳代から50歳代男性への医療機関受診勧奨を強化します。健診の結果、生活習慣病の重症化が懸念される人へは、受診勧奨通知に加えて、新たに電話でのアプローチ(電話による結果説明と受診勧奨)も行っていきます。 4、医療費が高額な人工透析治療の予防を目的として行う「糖尿病性腎症重症化予防事業(半年間、継続的に栄養や運動などの生活指導を行う事業)」では、かかりつけ医からの紹介を増やし、一人でも多くの人が参加し、透析導入の予防を目指します。 5、「生活習慣病リスクがある非肥満者への早期介入」は継続します。具体的には、肥満ではない人でも、高血糖や高血圧、脂質異常症などの危険因子が重なれば、心血管や脳血管疾患等などの発症リスクが高まることがわかっているため、このことについて説明された資料を送付して、生活習慣改善を促します。 6、「ジェネリック医薬品普及促進」は継続します。 7、「多剤・重複服薬者に対する保健指導」は継続します。 8、「若年者の健診受診促進」では、申込方法が電話のみでしたが、オンライン申請を可能にして、受診率向上を目指します。また、健診結果説明日の1週間前にリマインドメールを送ることで、結果説明に来所してもらう人を増やし、健診や保健指導を受けることを若いうちから習慣化します。 9、「各種がん検診の受診勧奨と普及啓発」では、全てのがんについて受診率の底上げを図るものの、特に受診率が低い20代の子宮頸がん検診については、より勧奨を強化していきます。 10、「歯科口腔保健対策の推進」は継続します。 11、「保健事業と介護予防の一体的実施の推進」では、更なる庁内(区役所内)連携の推進を図っていきます。 足立区では、計画の実効性を高めるため、庁内のみならず、医師会や歯科医師会、薬剤師会などの区内の関係機関と連携を図っていきます。また東京都保健医療局や国民健康保険団体連合会等の外部機関との連携も図ることにより、「健康寿命の延伸と医療費の適正化」の実現を目指していきます。