○表紙 あなたの身近にも。LGBTを知る本 2021年開催の東京2020大会では222人のアスリートが自らが性的マイノリティ(LGBT)であることを公表しました。 日本でのLGBTの当事者は、さまざまな調査によると、人口の約3%〜10%とされています。つまり33人〜10人にひとり。おおむねクラスに1人以上は性的マイノリティが。けれども様々な事情から公表しない人も多いのです。 ※本冊子では多様な性のあり方について「LGBT」に統一して標記します ○インタビュー ○当事者に聞く 親に受け入れてもらえて大きく変わった。 会社員 Aさん(トランスジェンダー) 制服を着るのに2時間かかった 違和感をはっきり意識したのは小学4〜5年生のころ。胸がふくらみ、生理がはじまり、体の変化がはっきりしてきたときに、「常にどこか捻挫している」ような違和感を覚えるようになりました。ブラジャーをつけるのが「絶対いやだ」と思い、寝るときあお向けの胸の上にハリーポッターの本を積んで、重力で胸を押さえようとしました。 決定的になったのが中学校のスカートの制服です。初めは朝、「よし、制服を着るぞ」と覚悟を決める時間が10〜20分くらいでした。2年生になったころから、朝5時に起床し2時間くらいベッドに腰かけ、ハンガーにかけた制服と向き合って「今日も着るからな」という時間を過ごさなければ着ることができなくなりました。 2年生の夏、制服を着て登校すると嘔吐してしまうようになりました。1か月くらいそれが続いて体重も減り、心身ともに衰弱して、学校に行けなくなりました。 不登校になってからは時間があり、パソコンの検索窓に「女性」「スカートはけない」などと入れて検索してみたところ、「性同一性障がい」という言葉を見つけました。自分がずっと苦しかったことには名前がついていたんだと気づき、とても救いになりました。 泣きながら母にカミングアウト 母にカミングアウトしたのは中学3年生のときです。成績が良かったのに、「制服がないから夜間高校に進学したい」と言ったため「なぜ?」という話になりました。 そのころ私は当事者ブログで、親にカミングアウトして家を追い出されたという記事も見ていたこともあり、追い出されたら、受け入れられなかったらという不安で、泣きながら話をしていました。すると母から「それって性同一性障がいってことでしょ?あなたをここまで育ててきた私が気がつかないとでも思った?なめるんじゃないわよ」と言われました。母もたくさん悩んだようですが、なんてカッコいい人なのだろうと思いました。 親が受け入れてくれて、初めて自分でもセクシュアリティを受け入れることができました。「親」という壁でつまずく子どもは少なくありません。 他人と違うことが目立たない夜間高校 夜間高校は年齢も幅広く、少年院出身者、不登校経験者、外国に繋がる人など多様な生徒がいたので、私が少々男っぽいからといって目立ちませんでした。他人と違うことが目立たない環境でしたので、夜間高校はとても過ごしやすかったです。 昼間はセクシュアルマイノリティの支援団体に入り、学校などで講演活動をしていました。学校の先生や生徒たちは、高校生の自分が当事者としての経験を話すと、真剣に聞いてくださったので、とてもやりがいを感じました。「しんどい」と思っていたことが人の役に立つことを知り、これまでの辛い経験を肯定できた活動でした。 日本の治療のガイドラインに沿いながら、18歳で治療を始め、大学に入学する頃には声も低く、男性というかたちで入学。今では珍しくない「中性的な男子」というジャンルに入ることができ、友人関係も築くことができました。時代の流れや環境にも助けられたと思います。一方で、恋愛話やトイレ、体育や実習など、性別が理由でつまづくことも多々ありました。 トランスジェンダーであることをやめられたら セクシュアリティを肯定的に捉えられる人もいますが、自分は「この薬を飲めばトランスジェンダーではなくなります」と言われたら飲むと思います。一方で、どうあがいても自分の意志でセクシュアリティを操ることはできないという諦めはできた。それならトランスジェンダーとして、できるだけ充実した人生を歩もうと思うに至りました。 みなさんに伝えたいのは「性的マイノリティを愛してください」ということではありません。どうしても受け入れられない人もいると思います。だからといって、相手を傷つけても良いということにはなりません。 約11人に1人は当事者と言われています。周りにいないと思っても、それは本人が言っていない、言えないだけかもしれません。自分は差別をしたことはないと思っている人も、差別を黙認していれば、加害者になってしまいます。誰かを傷つけていないか、振り返ってみて欲しいです。 ○教師に聞く 迷ったらいつも子どもが教師 足立区立中学教師 Bさん その生徒は、1年生の3学期に転校してきました。戸籍上の性別は女性、でも心は男性と思っている生徒でした。転入前に「スカートをはきたくない。リボンを着用したくない」という要望があり、生徒の転入を機に学校の規則を見直しました。また「校内に公表するか黙っておくか、どうする?」と本人に確認したところ、「自分がいないところでみんなに伝えてほしい」と話したので、緊急学年集会を開き、生徒たちに「転入生が来るよ」と話しました。 転入生?! 男子? 女子? 「転入生」という言葉にワクワクを隠せない生徒たちは、「転入生?! 男子? 女子?」。 その機を逃さず答えました。 「そこなんだよ」。 「性別は女子、でも自分を男子と思ってる生徒なんだ。だから、制服はスラックスにネクタイで来るよ。みんな、頼むな」。 そんな風にお願いしたところ、生徒たちはすんなり受け入れてくれ、男子とも女子とも仲良しという感じでした。 迷ったときは本人に聞いた 合唱の練習、プール、トイレ…とにかく何かある度に、本人に確認しました。迷ったり悩んだときは、本人を呼んで「困っているのだけれど、どうしようか」と聞きました。すると「こうしてください」「先生の提案どおりでいいです」などと回答してくれました。 たとえばアンケートで、性別の記入が必須というものがあり確認したら、「〇をつけたくないから、私の見えないところで先生が『女性』に○をしておいて」とのことでしたので、そのようにしたこともあります。 その生徒を受け入れてから、2人、同学年でカミングアウトする子がいました。今ではどの生徒にもそういう(LGBTなど)可能性があるという目をもって指導しています。 また、相性があるので、学年の教師9人の中で「お気に入り」の先生を見つけて、その先生との関係を深めていくように生徒たちには伝え、オープンな学年づくりを心がけました。 先生たちに伝えたいことは、常に何が正しいかわからないと考えて、柔軟に対応して欲しいということです。なにごとにも正解はない。以前は学校名簿は、男子女子の順番でしたが、今は足立区の全中学校で、男女混合名簿になったように。 ○親に聞く トランスジェンダー男性が振袖を着た理由 NPO法人ハートをつなごう学校 副代表理事 小林りょう子さん 「女の着ぐるみ脱ぎます」。子どもが22歳のとき、そうカミングアウトされ、ひっくり返るくらい驚きました。でも口から出た言葉は「わかった」でした。夫も「うちに虎井さんが来るんだ」と一言。下の子も「〇〇ちゃんが姉貴だろうが兄貴だろうが僕にとっては変わらない」と。 本人は、家族へのカミングアウトの失敗例を多く耳にしていたので、「この家に帰るのは今日が最後かもしれない」と覚悟して来たそうです。 ※虎井さん:『女から男になったワタシ』などの著書で知られる作家、虎井まさ衛氏。 振袖を着た理由 実は成人式を迎える前年、「明日、振袖を着て写真を撮ってもいいよ」と連絡してきました。ずーっとボーイッシュだったけど、やっぱり女の子なんだ!と喜んで振袖を揃えて、写真館へ行きました。 なぜ、子どもがそんな行動をしたのかわかりますか? 親を安心させるためです。そして、次に親が期待する「彼氏は?結婚は?」の話が出る前にカミングアウトしたのだと思います。 中高一貫の女子校時代は、下校するとすぐ制服のスカートを脱いでベッドにもぐりこむという生活でした。ベッドの中で、自分が何者かわからない、自分はこのまま生きて行けるのかなどと考えて、毎日泣いていたそうです。私たち親はまったく気づかなかったのです。この子はどれだけ悩み、苦労したのでしょう。 去年の子どもの誕生日に、「あなたが苦しんだ6年の年月を、私の残りの寿命からプレゼントしたい」と言いました。子どもからは「おかあの加齢臭がするような人生は要らないから、自分の人生をしっかり生きてくれ」と言われました。不可能なことだけれど、加齢臭は憎たらしいですね(笑)。 子どもが幸せなら親は幸せ 子どもは、ボーナスはすべて貯金し、親には一切の費用負担をさせず性別適合手術を進めました。胸の手術は28歳のとき。子宮・卵巣の腹部手術については、29歳のときタイで。G7の中で、法的に性別変更をするのに、このような生殖腺摘出手術を必要とする国は日本だけです。 帰国してその足で戸籍の性別変更手続きをし、3か月くらいかかって性別が「男」になり、パートナーと婚姻届けを出しました。 今、子どもは40歳になり、私たち親は子どもの家で同居しています。子どもからは、パートナーと私がだんだん似てくる、話し方がそっくり、と言われています(笑)。子どもが幸せなら私も幸せです。 子どもが振袖を着たことを先ほどお話ししましたが、自分を偽らなければいけない子ども、そしてそんな社会が変わってほしいと、活動を続けています。 ○本編 ○性のあり方は人によって違うんだよ 性のあり方はグラデーション。 「からだの性」を除き、性のあり方は「女」「男」の明確な境界線はないとされており、しばしばグラデーションで表現されます。自分で自由に選べるものではない自然なあり方です。 からだの性 生まれたときに判定された性 こころの性(性自認) 自分が認識している本来の性 好きになる性(性的指向) どのような性別を好きになるか 表現する性(性表現) 髪型や服装、しぐさ等をどう表現しているか この4つの要素の組み合わせが、人によって違います。 ○これだけは知っておきたい基礎知識 L=レズビアン(Lesbian)…女性(性自認含む)として女性が好きな人 G=ゲイ(Gay)…男性(性自認含む)として男性が好きな人 B=バイセクシュアル(Bisexual)…男女どちらも好きになる人 T=トランスジェンダー(Transgender)…からだの性とこころの性が一致しない人 他にも「自分の性がわからない人(Questioning)」「男女のいずれにも属さない性自認を持つ人(Xジェンダー)」など、性のあり方は様々です。 ○事例 傷ついている人がいること知っていましたか? 学校 小学校の教室内で、ホモやオカマという言葉が日常的に笑いの対象になっており、自分のセクシュアリティがバレたら生きていけないと思った。 他の人に体を見られる心配や、他の人の身体が目に入る罪悪感から、学校の更衣室やトイレが使いづらかった。 家 親から「一時の気の迷いだから精神科へ行け」「同性愛は治療できる」といわれ、病院に強制的に入院させられた。 カミングアウトをしたところ、家族の中で自分の存在を無視された。 就職・仕事場 トランスジェンダーであることを伝えたら、内定を取り消された。 取引先との商談や飲み会の席で、信頼していた上司に「こいつゲイなんですよ」と暴露された。 医療 救急車を呼んだ時に性同一性障がいであることを理由に「どう対応したらいいかわからない」と言われ、搬送されるまでに時間がかかってしまった。 意識不明状態のパートナーが入院したが、病院・医師から安否情報の提供や治療内容の説明を受けられず、面会もできなかった。 不動産 同性パートナーと二人の名義で住居を借りようとしたところ、ルームシェアが可能な物件にしか入居できなかった。 部屋を借りる際、住民票の性別記載が外見と異なることを理由に大家から断られた。 地域 避難所に届いた支援物資が、登録されている性別ごとに配布されたため、性自認にもとづく肌着や衣服などを入手することができなかった。 子どもが性自認や性的指向の困難を周囲に嘲笑され、本人だけでなく家族全体が居住している地域から孤立してしまった。 ※「一般社団法人性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会」による「困難リスト」より抜粋 ○もっと知りたい性の多様性 SOGI(ソジ・ソギ)って何? 「性的指向」(Sexual Orientation)と「性自認」(Gender Identity)の頭文字を取った言葉がSOGI(ソジ・ソギ)。性的マイノリティだけでなく、異性愛、シスジェンダーの人なども含めすべての人が持っている性的属性を指します。性の多様性に関する様々な問題を、当事者等の特定の人にのみ配慮が必要な課題としてではなく、すべての人の人権を尊重するための課題として捉えるべき、という考え方から「SOGI」という言葉を使う動きも広まりつつあります。 ※シスジェンダー:こころの性とからだの性が一致している人のこと。 アウティング(秘密の暴露)は絶対ダメ! 当事者本人の了解を得ずに、他の人に公にしていない性的指向や性自認等の秘密を暴露することは絶対にあってはいけません。たとえ善意であったとしてもです。本人のダメージは計り知れません。本人から打ち明けられた(カミングアウト)としても、その情報の扱いには本人への確認が不可欠です。 性的指向や性自認に対する嫌がらせや差別はハラスメントになります 厚生労働省は「セクシュアルハラスメントに関するハラスメント防止のための指針」を2020年に改訂し(中小事業主は2022年4月から義務化)、「人格を否定するような言動を行う。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む」を「精神的な攻撃」に該当する例にあげています。これらは、職場に限らず、いかなる場面においてもハラスメントです。 LGBTは「病気」や「障がい」ではありません LGBTは生まれ持った性のあり方。現在は、WHO(世界保健機関)や日本精神神経学会などは、同性愛を治療対象から除外。性同一性障がいについても、WHOで「精神障がい」の分類から除外されました。 ※性同一性障がいとは、「からだの性」と「こころの性」が一致しないとされた人たちにつけられる医学的な診断名です。 シンボルはレインボー! LGBTに関するイベントやグッズ等に見る、カラフルな虹。レインボーは、LGBTをはじめとしたさまざまなセクシュアリティの尊厳、そして多様性を表します。今は6色レインボーが主流です。 誕生は1970年代後半。ゲイの解放運動でシンボルとされていたピンクトライアングル(ピンクの三角形)に代わるシンボルが求められたことがきっかけ。美術家で公民権活動家のギルバート・ベーカー氏が、新たなLGBTのシンボル“虹”を思いつき、その後の彼の活動により広まったとされています。 赤:生命 オレンジ:癒し 黄色:太陽 緑:自然 青:調和 紫:精神 アライ(Ally)になりませんか? アライとは「協力者」や「味方」を意味する英語。転じて「LGBTを理解・支援する人」を指します。態度や行動で示すこともアライ。小さなことからはじめてみませんか。 たとえば、 LGBTについてもっと知識を得ること。次に自分事として考えること。さらにそれを自分の周りの人と話すときの話題の一つにすることも、小さな一歩です。 当事者に対して直接的・間接的に差別的な行動や言動(意識的・無意識問わず)を取らないよう意識すること。さらに、周りの人にも取らせないよう働きかけてみることができれば大きな応援になります。 レインボーを使ったフラッグやシールなどのグッズを目に見える場所に置くことで、アライであることを表明できます。 ○足立区は多様な性のあり方を応援しています 足立区パートナーシップ・ファミリーシップ制度 戸籍上の性別にとらわれず、お互いを人生のパートナーとして協力しあい、生活を共にすると約束した2人が、自由な意思により届出した「パートナーシップ宣誓」を区が受領し、受領証明書および受領証明カードを交付する制度。 未成年のお子様がいる場合、併せて「ファミリーシップ宣誓」することができます。 この受領証明書等は、法律上の権利・義務を付与する効果を生じさせるものではありませんが、この制度を通して、区民の皆さんの性の多様性への理解が深まり、誰もが人生のパートナーや大切な人と安心して暮らすことのできる区を目指します。 あだちLGBT相談窓口 専門の相談員が、相談者の気持ちに寄り添いながら、お悩みを伺います。秘密は厳守しますので、安心してご相談ください(面談もしくは電話)。ご本人だけではなく、ご友人やご家族など周りの方からのご相談もお受けします。 相談時間 毎月第1月曜日 午後5時〜8時(1相談につき50分)        第3土曜日 午後2時〜5時(1相談につき50分) 相談場所 足立区男女参画プラザ(エル・ソフィア内 足立区梅田7-33-1) 事前予約制 ※予約希望日の2日前(土日祝を除く)まで 予約方法 電話予約 03(3880)5222 (月〜金 午前9時〜午後5時、祝日・年末年始除く) 区ホームページ(専用フォーム)から予約 足立区のLGBT支援ロゴです! LGBTの4文字をレインボーカラーで表現。既成概念にとらわれない自由なデザインに、多様性を応援する思いを込めています。 区のLGBT啓発事業などで活用を進めるほか、区民の皆さんにもご活用いただけるように準備を進めていきます。 ※使用をご希望の方はご連絡ください。 足立区 多様性社会推進課(男女参画プラザ) 足立区梅田七丁目33番1号(エル・ソフィア2F) TEL:03-3880-5222 FAX:03-3880-0133 MAIL:danjo@city.adachi.tokyo.jp 監修:一般社団法人こどまっぷ