あだち広報テキスト版2020年(令和2年)2月10日第1824号6・7面







匠 現代の名工



 様々な分野の職人の中で、国から「卓越した技能者(現代の名工)★」に選ばれ、高度な技術を持つ川澄巌氏と竹内功氏。今号は、お二人を近藤やよい区長とともに取材しました。

	問い合わせ先 広報係 電話番号03-3880-5815

◆…東京都が、都内に勤務する技能者のうち、極めて優れた技能を持ち、ほかの技能者の模範と認められる方を表彰する制度

★…厚生労働省が、卓越した技能を持ち、その道で第一人者と目されている技能者を表彰する制度

■…文化庁が、文化活動に優れた成果を示し、日本文化の振興や海外発信、国際文化交流に貢献した方を表彰する制度







江戸刺繍(えどししゅう)

竹内功(たけうちいさお)75歳



 昭和19年足立区千住河原町生まれ。昭和41年日本大学卒業後、家業に入り、36歳で3代目を継承。精緻を極めた針運びや独自の技法を編み出す発想力は、ひときわ異彩を放っている。

[主な表彰歴] 

平成29年「東京マイスター◆」

令和元年「現代の名工★」





江戸の粋を表現する「文駒縫(あやこまぬい)※」



人を魅了する作品を生み続ける

 手先が器用だとは思っていたが「高校2年生のときに、義兄から刺繍をやらないかって言われて、やったらすぐできちゃったんだよ」と穏やかに語る。それから半世紀以上にわたり技を磨き、中でも糸を玉留めのように縫っていく「相良縫(さがらぬい)」の精密さは、ほかの職人の追随を許さない。その技術の高さや、幾何学模様をモチーフにしたモダンなデザインに惚れ込むファンは多い。



日本刺繍の歴史に新たな息吹

 竹内氏が考案した「文駒縫」は、見る角度で色とりどりに姿が変わる立体的な刺繍だ。これは、飛鳥時代から続く日本刺繍の歴史で、誰も思いつかなかった技法。「明治や大正にも腕が立つ職人はたくさんいた。昔は言われたことを完璧にできれば食べていけたけれど、今はそれだけでは食べていけない。だから、自分に何ができるかを常に考えることが大事」。こうした竹内氏の探究心が、伝統的な技法の中で革新的な技を生み出した。



頭の中のイメージだけで描く

 刺繍は、草花や鳥などよりも、直線的な図柄の方が難易度が高い。さらに、生地にはそれぞれ溝があり、その溝も考慮した上で針を通さなければならない。寸分違えば崩れてしまう図柄でも、竹内氏は生地に輪郭しか描かないという。「枠の中の細かいデザインは頭の中に入っているよ」。

 まさに経験と技術のなせる神技だ。

※…「駒縫(こまぬい)」は、駒(糸を巻く芯)に巻いた2本の金糸を黄か赤のとじ糸で止めていく技法。銀糸の場合に白のとじ糸で止めていく技法は昔から存在したが、竹内氏は多色のとじ糸を使用することで、立体感と刺繍の妙を生み出した。(下記写真参照)



▲糸一粒(相良縫)の大きさを揃えて縫っていく技術が特に高く評価されている



▲糸は数本をまとめて一本に。まとめる糸の数も図柄によって変えることで、立体感が増す



▲貝紫色の糸。巻貝の分泌液を使用しており、糸ひと巻きを作るには約1,000の巻貝が必要





江戸刺繍

 江戸の町の繁栄とともに発展した刺繍。公家(くげ)に好まれたやわらかで華やかな京風の刺繍に対し、あえて余白を大事にする、シンプルで武家好みの図柄が特徴。







東京打刃物(とうきょううちはもの)

川澄巌(かわすみいわお)87歳



 昭和7年足立区扇生まれ。昭和30年日本大学卒業後、父・国治(くにはる)氏に弟子入りし、45歳で2代目を継承。約60年にわたり鋏(はさみ)鍛冶に努め、その切れ味などから、川澄氏が作る「国治」の銘を華道界で知らぬ者はいない。

[主な表彰歴]

平成27年「東京マイスター◆」

平成28年「現代の名工★」

令和元年「文化庁長官表彰■」





切れ味と機能美を追求した「国治」



独学ゆえの柔軟さが生んだ名品

 「師匠である親父が、これからの職人はものづくりだけじゃなくて、商売の仕方も学べって言うから、大学に行ったんだよ」と川澄氏は笑う。父親の国治氏に師匠はおらず、お客様の声に耳を傾ける柔軟性と独学ゆえの自由な発想力が、現在の型を生み出した。「親父が華道の先生から、毎日鋏を使うと手が腱鞘炎(けんしょうえん)になるって相談されたみたい。それで、持ち手にすき間を作って、力を逃がしてやれるように工夫したんだね」。そのうちに口コミで全国に評判が広まり、多くの華道家や植木職人に愛用されるようになった。

	

美しい鋏の工程は約80に及ぶ

 国治の鋏は、確かな切れ味を追求した結果、ほかの職人が作る鋏の倍以上の工程を経る。「刃先に目がついている(刃先にまで神経が行き届く)」といわれるゆえんだ。そして、その機能美に魅了されるファンも多い。「初代は、鋏は切れなくちゃいけないが、機能美も大事だって言っていたね。いいかげんで汚いものは誰も使いたくないけど、格好良かったら大切に使う気持ちが出てくるだろって」。



新しい挑戦を続ける匠

 初代の心意気を受け継ぐ2代目国治は、今でも逸品を職人たちに届け続けている。「ここの部分を工夫したらもっと良くなるんじゃないかなって常に考えている。まだまだやってみたいことがたくさんあるよ」と目を輝かせる。

 その探究心は留まることを知らない。



▲適度なすき間が生む、軽やかでシャープな音こそ逸品の証



▲体に染み込んだ感覚で、約80ある全工程を1人でこなす



▲ほかの職人たちが解体して研究する程の切れ味を誇る





東京打刃物

 明治時代に廃刀令が出され、多くの鍛冶職人たちが業務用・家庭用打刃物作りに転業したことで発展した刃物などの総称。



右は「つる手」で、左は「わらび手」の鋏。華道の流派や用途によって、その形が変わる