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公開日:2020年2月8日 更新日:2020年2月8日

足立区が誇る「現代の名工」

足立区が誇る「現代の名工」

あだち広報令和2年2月10日号「現代の名工特集」では、足立区が誇る匠・川澄巌氏と竹内功氏をご紹介しました。たゆまぬ探究心が生み出す卓越した技術は、唯一無二の名品を生み出し続けています。

東京打刃物 川澄巌

切れ味はもちろん、その機能美にもファンが多い鋏「国治(くにはる)」は、川澄氏の父である初代が独学で始め、親子2代にわたる職人の心意気と探究心が詰まった逸品だ。

国治の鋏は、刃先に目がついている

多くの華道家から絶大な信頼を寄せられている鋏「国治」。「初代の親父は、鍛治の知識もなにもなく東京に出て来て、たまたま町で見かけた鍛冶屋に興味を持って独学で始めた。現在の型は、初代が華道の先生から相談を受けたのがきっかけ。毎日教室で鋏を使っていると手が腱鞘炎になっちゃうから、それで持ち手の部分にすき間を開けたんだね。そうすると、力がすき間から逃げて、手に負担がかからない。刃物業界では川澄という名前よりも、国治のほうが通っているよ」。

国治の鋏は、刃先に目がついている

約80ある全工程を1人でこなす

「国治」が名品といわれるゆえんは、製造工程の多さにもある。ほかの職人が作る鋏の倍以上の工程を経て作られ、たとえば研磨の工程だけでも、様々な種類の研磨剤を使用する。「工程の中で一つでも手を抜いたら、次の工程でだめになっちゃう。その時々、ちゃんと真面目にやらなきゃだね」。仕上げのチェックは刃と刃のすき間を見ることで、その絶妙なすき間が鋭い切れ味の決め手となる。今までの経験でその間隔を見極め、刃先まで使い手の神経が行き届く逸品を作り上げる。

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切れるだけじゃない、美しい鋏を作れ

切れるだけじゃない、美しい鋏を作れ「これからの職人はものを作るだけじゃなく、商売の仕方も考えなきゃいけない」という父からの言葉で大学に行き、経済学を学んだ。学校に行きながら、夜は家業を手伝った。「親父は常に一流のものを見て、目を養えって言っていた。普段は休みなんてもらえなかったけど、博物館に行くとか、漆の職人を訪ねるっていうと行かせてくれたね。さすがに漆職人は鋏を作る参考にはならなかったけど、職人としての気構えは参考になったな」。
父からの教えはもう一つある。「鋏は切れなくちゃいけないけど、機能美っていうのが大事だって。いいかげんに作った汚いものは誰も使いたいと思わないけれど、かっこいいものだったら、大切に使おうと思うだろって。デザインは直接切れ味には関係ないけれど、全体の形は常にいろいろ考えたよ」。修行中は毎年元旦に、自分一人で一丁の鋏を作らされたという。そして、前年と比べて良し悪しを自分で判断した。「普段は何も言わないけど、厳しい人でしたね」。

いつまでも挑戦し続ける87歳

職人に逸品を届け続ける2代目国治は、今でも作品を賞に応募するなど挑戦を続けている。「若い人にも、いろいろチャレンジしてほしいね。私も、この部分を工夫したらもっと良くなるんじゃないかってアイデアがたくさんある」。
師匠であり父である初代から、鋏の技術はもちろん、職人としての革新的な一面も受け継いだ川澄氏。新たな可能性に向かって仕事と向き合う姿に職人の本質が垣間見えた。

約80ある全工程を1人でこなす-2

 

川澄 巌(カワスミ イワオ)

川澄巌氏昭和7年足立区扇生まれ。昭和30年日本大学卒業後、父・国治氏に弟子入りし、45歳で2代目を継承。約60年にわたり鋏鍛冶に努め、その切れ味などから、川澄氏が作る「国治」の銘を華道界で知らぬ者はいない。
【主な表彰歴】
平成27年「東京マイスター」 平成28年「現代の名工」 令和元年「文化庁長官表彰」

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江戸刺繍 竹内功

精緻で美しい図柄を作り上げる竹内氏の刺繍は、伝統的な日本刺繍をベースにしながらも、独自に考案した技法を駆使し、他にはない世界観を表現する。

約100年続く刺繍屋の3代目

「2代目に、ちょっとやってみないかって言われてやってみたら、すぐにできちゃったんだよ」と穏やかに語る。もとから手先は器用で、義兄である2代目から声をかけられたのは高校2年生の夏休み。それからは頼りにされて、大学に通いながらも休みになると家の仕事を手伝った。「最初はやらされている感じで、あまり好きにはなれなかったな(笑)」。

約100年続く刺繍屋の3代目

独自の着想で、人を魅了する

独自の着想で、人を魅了する友禅などと異なる刺繍の魅力は「立体的に見えるところ」だ。染め物はどの角度から見ても同じように見えるが、刺繍は違う。特に竹内氏が考案した「文駒縫(あやこまぬい)」は、それがよく表現されている。
「駒縫(こまぬい)」は、駒(糸を巻く芯)に巻いた2本の金糸を黄か赤のとじ糸で止めていく技法。銀糸の場合に白のとじ糸で止めていくのが普通の縫い方だったが、「文駒縫」は、多色のとじ糸を使用することで立体感と刺繍の妙を生み出した。「実際にやってみると、頭で考えていたより面白い仕上がりになったね」。確かに、金、赤、青など、色とりどりの光を放っている。この技法は、飛鳥時代から続く日本刺繍の歴史で、誰も考えてこなかったことだ。

寸分狂わぬ針運びが、比類なき刺繍を生み出す

江戸刺繍は、公家に好まれた京都のやわらかく華やかな柄に対して、武家好みのスッキリとした粋な柄で、あえて空間を楽しむ。竹内氏は、幾何学模様のモダンな図柄を好んでよく縫うが、草花や鳥などよりも、直線的な図柄の方が難易度は高い。線が曲がっているのが、誰の目にも明らかだからだ。そして、生地にはそれぞれに溝があり、その溝を考慮して針を進めてこそ、美しい直線になる。
より一層の立体感を生むために、糸にもこだわりがある。一見すると1本に見える糸は、14本で1本にしたり、わざと凹凸にまとめたり、その具合によって刺繍の仕上がりが異なる。繊細な技術が必要になる刺繍だが、竹内氏は生地に輪郭しか描かない。枠の中の図柄は全て頭の中だけで描き、これまでの経験を活かして生地に針を通していく。その誰にも真似ができない針運びが、多くのお客様から愛される逸品になる。

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お客様が「楽しみ」と言ってくださる刺繍を

日本刺繍は、伝統的に同じ技術を守ってきたが、竹内氏はその技術を変化させて、今までにない表現を生み出したいという。しかし、作るばかりでは伝統は続かない。「みなさんぜひ着物を着てください。この刺繍の帯にどんな着物を合わせようか楽しみなんて言っていただけるとうれしい」。最近では、柄の中にお客様の家紋を潜ませる遊び心のある刺繍をあしらった。「ぱっと見てもどこに入っているかはわからないけれど、ここですよって場所を教えて、よく見ると発見できる。家紋が入っていると身が引き締まるし、帯をしめるのが楽しみになるでしょう」。
さらなる刺繍の可能性を追求する職人のあくなき探究心に、これからも期待が高まる。

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竹内 功(タケウチ イサオ)

竹内功氏昭和19年足立区千住河原町生まれ。昭和41年日本大学卒業後、家業に入り、36歳で3代目を継承。精緻を極めた針運びや独自の技法を編み出す発想力は、ひときわ異彩を放っている。
【主な表彰歴】
平成29年「東京マイスター」 令和元年「現代の名工」

※本記事の内容は令和2年2月10日現在の情報です。

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